…ーーとても長い夢を見ていた。
私の記憶が失われ、それを取り戻そうと凪斗たちが奮闘してくれる。なんて少年誌のような夢。自分の少年誌脳が馬鹿のように思える。いや、そうなんだけど。前の世界で少女漫画より少年漫画読む人だったから、私。
重い体を起こそうと、横に感じる手に力を入れる。が、どうしても力が入らない。じゃあ目から開けてやる。
「…は?」
私が間抜けた声を漏らしたのは、目の前に広がる異様な景色のせいだ。
ほんのりと緑色にひかった天井が近い。顔を左右に向けてみると、そこにも壁がある。背中にはふわふわとした感触が私を包んでいた。
ああ、デジャブ。トリップなんてなんでもありだから、時間が戻ったとかだろうか。寂しいが、それでもいいか。なんて呑気なことを考えていると、ガタッと大きな音がして蓋が開いた。半身を起こして、辺りを見回す。
「あ、」
すると、ドアの方に一人の青年が立っていた。ぴょこっとアンテナが動く。
「…ーーみょうじ…?」
確認するように私の名前を呼ぶ。声やアンテナから日向くんだと再確認できた。私の名前を呼んだので、リセットされた、ということでは無いらしい。
「おはよう、なのかな?えっと…おはよう、日向くん」
いつの間にプログラムが終わったのかは知らないが、とりあえず終わったらしい。今分かる範囲で彼に声を掛けると、日向くんは安心したように笑った。目にうっすら涙が浮かんでいるが、なぜだろうか。それを考える前に日向くんを押しのけて、見慣れた白い彼が飛び込んできた。
「な、何!?」
「良かった…良かったぁ…」
「だ、から何事ーー」
彼ーー凪斗は私に近付き、起こしている半身に抱きついてきた。その綺麗な顔には涙が流れていて、目は赤くなっていた。目元が腫れている所を見ると、だいぶ前から泣いていたみたいだ。
彼らの反応から見て、私は何となく察してしまった。
「私の記憶って、え、マジで?」
落ち着いてきている日向くんを見ると、彼は小さく笑って頷いた。その笑みは苦笑だったが、若干の安心を含んでいた。
つまり私が見た夢は本当だった、と。そしてギリギリに記憶が戻った私を見て、安心して泣いたのか。いや、凪斗は心配で泣いてくれていたのだろう。自分が起きた時からずっと。
あれ、夢が本当だったのなら、堂城さんはどうなったんだ…?
私の疑問に答えてくれたのは、意外にもまだ落ち着いていない凪斗だった。いや、正確には答えてくれたんじゃない。
「…なまえさんの記憶が戻った…なら思い残すことなんてない…アイツを、アイツを…」
ぼそぼそと呪いのように呟かれた言葉。それは正確に聞き取れなかったが、アイツが堂城さんだという事はなんとなく理解できた。そしてとんでもない事を言っていることも分かった。
「…まぁ、良かったよ。みょうじが起きてくれて」
「うん。そうだね。私も皆にまた会えてよかった」
いまだに抱き締めたままの凪斗のふわふわとした髪を撫でながら、心から思えたことを零した。
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