なまえさんの記憶がなくなってから2週間がたった。ボクたちに残された時間は10日ほどになった。時間とは早いもので、なんの成果も得られないままだ。今、何がほしいと問われたら即答で時間と答える。それほど時間が欲しかった。
苗木クンも未来機関と定期的に連絡をとっているらしいが、向こうも何も成果は得られていないようだった。
なまえさんは早く思い出すため、と病院を出ていつも通りに過ごしている。日向クンが皆に言ってくれたからか、少しぎこちないが皆もいつも通りに接していた。
そしてその"いつも通り"の朝。ボク、なまえさん、七海さん、日向クンがテーブルを囲んでいると、苗木クンがウサミを抱いて急いだようにレストランへと入ってきた。
苗木クンのスーツは崩れ、額には汗が浮かんでいる。そこまで急いでどうしたのか。そんな疑問に答えるように、苗木クンは整っていない息を吐きながら口を開いた。


「霧切さんが調べてくれて…っ、分かったんだ!!なまえさんの記憶喪失は、絶望病みたいなッバグじゃない…!!システムを改変して、意図的に記憶を消したんだ…ッ」

「消した…って…じゃあ戻らないってことか!!?」

「いや、それは違うよ…!!システムを改変したなら、そのシステムを改変し直せばいいんだ。そうすれば、自然と記憶は元に戻るはずだよ。
その作業を十神クンとアルターエゴ、ウサミがやってくれてるんだ!!」


やってくれている本人を連れてきちゃダメじゃないかな、苗木クン。と心の中で思いながら、腕の中のウサミを見る。案の定ウサミはぐったりとしていた。


「あ、それとね…今のが良いニュースだとしたら、今から言うのは悪いニュース。
システムが改変できるのは、未来機関に隠してあるパソコンか…ジャバウォック島のあの機械だけなんだ。だから、」

「…未来機関がシステムをいじったんだね」


ボクが言うと、苗木クンは重々しく頷いた。あまり好きではなくとも、未来機関は身内だ。身内がそんなことをしただなんて、と苗木クンは少なからずショックを覚えているのだろう。


「…誰がやったんだ…そいつが絶望に感染してたら、殺したいほど嫌ってやれるのに…」

「………苗木さん、」

「えっ、あ、なに?なまえさん」


苗木クンが物騒な事を呟いていると、なまえさんはそれを遮った。なまえさんはボクに言い聞かせた時のように、真剣な表情をしていた。


「今更かもしれませんが、私、声を聞いたんです」

「声…って、何の?」

「日向さんはこの前、"何もない空から視線を感じた"と言っていました。それと同じ原理だと思います。寝ている時、声が聞こえたんです」


なまえさんが言った事に日向クンは同感するように頷き、「多分…苗木達だったんだろうな」と思い出しながら言った。
つまり、本当のジャバウォック島で監視している人達に限られる事になる。そこになまえさんが聞いた声を合わせれば、犯人を絞り込む事ができる。


「それで、その声は何て言ってたの?」

「えっと…男の人の声、だったと思います。聞き辛かった所もあったのですが、

"…望がこ…で抹消…きるのに、シス…ムに何…鍵がかか…ている。こんな…の、無かった…ずなのにッ"

…とずいぶん怒っていました。焦っていた気もします」


以上の事を組み合わせると、ジャバウォック島で監視している男。十神クン、葉隠クン。


「…ああ、なるほどね」


そういう事か。なまえさん、七海さん以外が納得したように頷いた。その目はゴミを見るかのごとく、冷めきって。犯人、


…堂城和也。


その人だ。嗚呼、神様。そいつに天罰を、
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