お互いがやることを確認し、病院から出ていった。ボクも出来る限りのことを、となまえさんの病室へと足を向けた。モノクマがいるのか、と思うと気分が乗らなかったが、仕方ない。

病室に行くと、ボクは絶句した。モノクマとなまえさんが花を飛ばしながら和気藹々としていたのだ。


「…なまえさん…?」

「あっ、凪斗さん。おかえりなさい…皆さんは?」

「帰ったけど…仲良さそうだね」


凪斗さん。おかえりなさい。その言葉に心の中で悶えながら、目の前で起きている異色の光景に目を奪われていた。
モノクマは「記憶ある方が良いんだけどさ〜やっぱこの子いいよね〜うぷぷっ」となまえさんに懐いているようだ。


「モノクマさんとお話してたんです。凪斗さんもお話しますか?」

「いや、遠慮するよ。なまえさんと二人で話したい気分なんだ」

「…えーっと、じゃあモノクマさん。また後でお話しましょう?」


なまえさんがモノクマに言うと、モノクマはつまらなさそうにため息を吐き、「仕方ないなぁ、後で覗きにくるからねっ!!」とトテトテと病室から出て行った。
そうとうなまえさんを気に入ったらしい。


「なまえさんの記憶をなくす前の話なんだけど、いいかな…?」


躊躇いがちにそう言うと、なまえさんは「もちろん。皆さんのためですから」と笑った。マジ天使。
それからボクは全てを話した。この世界のこと、絶望のこと、未来機関のこと、皆のこと、ボクとなまえさんのこと…全部話した。その度になまえさんは「大変ですね」「ごめんなさい」「すごいですねぇ」と感情をコロコロと変えて、自分のことのように聞いてくれた。まぁ自分のことなのだが。


「…これで全部だよ」


まるで辞書を音読したようなやり終えた感じが、ボクを包んだ。なまえさんはボクたちが付き合っている事の話のとき、今にも泣きそうな表情で話を聞いていた。ごめんなさい、私が記憶をなくしたばっかりに、と彼女の瞳がそう言っているような気がした。


「じゃあ私は記憶を取り戻すの、頑張らなきゃいけませんね。凪斗さんのためにも、皆のためにも」


記憶をなくしても、なまえさんはなまえさんだと思った。「話終わったぁー?」と病室に入ってくるモノクマを尻目に、なまえさんを眺める。
彼女が愛おしい改めて思うと同時に、彼女の記憶を消した犯人への憎しみが湧き上がってくるのを感じた。そいつのせいで、なまえさんはどこかへ行ってしまった。このままなまえさんの記憶が元に戻らなかったら?そう考えると、記憶を戻さなければと焦ってしまう。


「凪斗さん、」

「ーーえっ、あぁ、なんだい?」


ぼぉっと考え込んでいると、呼ばれた声に反応が遅れた。なまえさんはモノクマを抱きながら、ボクの顔色を伺うような体制でこちらを見ている。ボクが苦笑しながら首を傾げると、なまえさんは微笑みながら「いいですか?」と先生のような口調で話しかけてきた。


「私は記憶を取り戻すのに気持ちを向けます。だから、凪斗さんも自分のやりたいことに気持ちを向けて下さい。
私の記憶を取り戻すのを手伝ってくださるのは嬉しいです。でもそれが凪斗さんのやりたい事でないのなら、それはすべきじゃないです。だから…」


彼女はそこで言葉を区切った。いや、正確に言えば言えなかった。なぜならボクが遮ったから。


「いや、ボクはそれがやりたいんだ。だから、キミの隣にいる。

キミの隣にいるのはボクじゃないと許さない。

ボクのやりたい事は、なまえさんと一緒にいることなんだ」


ボクの宣言した言葉になまえさんは真っ赤になって俯いた。


「…嘘つき」


その言い回しになまえさんの記憶が戻ってくるのは早い気がした。

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