その場にいた全員の表情が凍る。なぜだ、なぜだと目が語る。その状況が心底面白かったのか、当のモノクマは腹を抱えて笑っている。


「うぷぷぷぷっっ!!!!!あはははははっっいひひひひひひっっ」


その場にいた全員が憎しみの目でそいつを見た。どうせお前が犯人なんだ。なまえさんの記憶を返せ、と。ピンと張り詰める空気。それを破ったのは、意外にもなまえさんだった。


「すごーい、人形が動いて喋ってるー!!」


ひょいっとモノクマを軽く持ち上げ、彼女はまるで本物の人形を扱うかのようにモノクマを見回した。モノクマはそれが面白くないらしい。明らかにムッとしてなまえさんを見つめた。


「ボクは人形なんかじゃないよ!モノクマだよーっ」

「へぇ、モノクマさん、って言うんだね。よろしくね、モノクマさん」


だが記憶をなくした純粋ななまえさんには通用しなかった。その純粋っぷりにはモノクマも引いたように見える。不機嫌そうだ。


「面白くないなーっ!!ボクがはじめて見た時はもっと面白かったじゃん!!」

「…何言ってるんだよ…お前がッ!!お前がなまえさんの記憶を消したんだろッ!!」


ついにキレた苗木クンが声を荒げる。その声にびっくりしたのはなまえさんだった。多分、いきなりの大きな声にびっくりしたんだろう。苗木クンの質問にモノクマは苗木クンを見て、「苗木クンったらそんなに男前だったっけ?」と嘲笑うようにうぷぷと口に手を当てた。


「ボクがそんな事するワケないじゃーん!!」

「じゃあ誰がしたって言うんだよッ!!?」

「さぁねー、だってボクにそんな力あまってないし。ぶっちゃけちゃうと、ボクはもうシステム変換できるほどの力はないのです!!」


えっへん、と胸を張るようになまえさんの腕の中でポーズをとる。モノクマの宣言に全員顔を見合わると、モノクマは不服そうな顔をした。そこらの人形より感情豊かだ。


「信じないだなんてヒドイなぁ…あっ、でも今から言うことだけは信じないとダメだからね!!1回しか言わないよ!!本当だからね!!


…ーーこのままこのプログラムを終了させたら記憶喪失のままだよ


やだなぁ、そんな顔しないでよーっうぷぷっ!!!本当に絶望的な顔だね!!」


ボクらは顔を見合わせると、病室から出て一旦話し合うことにした。もちろん、モノクマを逃がさないための対策はしてある。なまえさんに「その人形と遊んでてね。無くしちゃダメだよ」と言ってきただけだが。


「…なぁ、狛枝」


病室を出たのはいいが、話し出すきっかけを見失ったボクらに流れた沈黙。それを破ったのは日向クンだった。日向クンはボクの名前を呼んだはいいが、言葉が見当たらなかったらしく、視線をあっちにこっちにと泳がせていた。


「…うん。本当だよ」


自然と日向クンの言いたいことが分かった。それはなまえさんの記憶喪失は本当か、嘘かという事だった。ボクが宣言すると、日向クンをはじめ全員が驚いたと同時に絶望的な表情をした。


「…モノクマに力があるなら、今すぐにでもコロシアイを起こすと思うよ。でもそれが起きてないから、モノクマの言うことは本当なのかも」

「それって、モノクマはみょうじの記憶を消してない、ってことか?」

「うん。そうだと思う」


じゃあなんだ、とお互いに黙り込む中、ボクの記憶の片隅にあったのは"絶望病"というバグ。だがそのバグはモノクマがシステムに侵入し、引き起こしたものだ。今のモノクマにその力が無いとすれば、絶望病ではないとなる。
じゃあ誰がどうやってやった。なまえさんだけの記憶を消す、ということは明らかになまえさんを意図的に狙ったものだ。この事件は学級裁判よりも絶望に包まれている気がした。

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