ピッピッ、と規則正しく鳴り響く機会音が嫌に耳に付く。清潔感溢れる白いベッドに目をやれば、熱が下がったからか少しだけ顔色が悪い彼女が枕に埋れていた。真っ黒な髪がその白さの中で目立っている。息遣いは少しばかり荒かった。
ああ、はやく目覚めてよ。はやく僕に笑いかけてよ。
まるで死んだかのように眠るなまえさんを見ていると不安になってしまう。いや、死んだなんて縁起が悪い。なまえさんは生きてるじゃないか。そう自己暗示のように呟くと、いくらかは安心することができた。


それから1、2時間ほどたった頃。
顔色も若干元に戻った気がする。息遣いも整っている。良かった、と安心して溜めていた肺の中の空気を一気に吐き出す。肩に取り憑いていたものが落ちたようだ。
ピッピッという電子音も、さっきより耳に付かない。少し落ち着けたみたいだ。


「…なまえさん、」


小さく彼女の名前を呼ぶ。当の本人には…反応なし。もう夜時間だ。コテージには一度戻った方がいいだろう。ああ、ほら。噂なんてしてないのに、ちょうど日向クンがやってきた。
日向クンは小さく手を上げた。「よう」少し疲れたような笑い方。日向クンもこの場にいたいだろうけど、ボクに譲ってくれた。感謝しなければいけない。


「ちょっと休めよ。花村にサンドウィッチ作ってもらったんだ」

「…うん。ありがとう」


日向クンは椅子をボクの隣に置き、膝の上にたくさんの美味しそうなサンドウィッチを広げる。「はい」ボクにサンドウィッチを差し出し、自分もサンドウィッチを食べ始めた。そのサンドウィッチを受け取り、口へ運ぶと体が欲していたようで、以上の唾液が口に広がった。日向クンが持ってきてくれた水で流し込む。


「生き返ったよ…」


そう呟くと、日向クンは苦笑して「ずっと付きっ切りだったからな。気付かなかったんだろうな」とまたサンドウィッチを頬張った。日向クンにサンドウィッチを貰い、黙々と口へ運ぶ作業を繰り返す。しばらくすると、男同士の食べるスピードに敵わなかったサンドウィッチが日向クンの膝の上から消え去った。


「まぁ腹の足しにはなったか?」

「そうだね。美味しかったよ」


日向クンは膝の上のゴミを片付けると、席を立ち上がった。「どこに行くんだい?」「水買いに行くんだよ」出口の方に向かう日向クンの背中を眺めていると、ベッドで動く気配があった。日向クンもそれに気付いたようで、同時にベッドの方を振り向く。そこにはぼーっと何もない一点を眺める半身を起こしたなまえさんの姿。


「…ッなまえさん!!!」

「みょうじッ!!!」


ボクと日向クンは向き合うと、目で語った。日向クンには皆に伝えてくれ、と。それに頷き、日向クンは急いで病室を出て行く。
ボクはなまえさんに近付き、彼女の名前を呼んだ。ピク、と反応し、なまえさんはボクの姿を捉えると、紫のかかった唇を小さく動かした。そこから紡がれたのは、






「ーー……誰、ですか…?」






ボクの名前もなく、ただただ、絶望的な言葉、だった。
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