…ーーなまえさんが倒れた。

一瞬、その状況に思考がついて行けなかった。七海さんや日向クン、苗木クンが慌てて何かを叫んでいる。その数秒後に罪木さんが飛んできて、青ざめた顔で周りに指示を飛ばしていた。
さすが超高校級の保険委員、だなんて呑気な事を考えている場合じゃない。そんな事は分かっているはずなのに、ボクの体は電池が切れたように動かなかった。

…ーーなまえさんが倒れた。なまえさんが倒れた。なまえさんがたおれた。なまえさんが…タオ、レタ…?

そんな事、


「あはっ…!!」


無意識に笑いが込み上げてしまった。どこにも笑う要素なんてあるはずがない。それなのに、ボクの口は笑い声を紡いでいた。





「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは…っ」





なんで、なんで、なんでなんでなんでナンデナンデ…ッッ!!!!!!


「なんで、っなまえさんなんだよ…っ!!!!」


笑いが治まった頃、ボクは自分の状態に気付いた。もしかしたら、人は本当に追い詰められた時、笑ってしまうのかもしれない。笑って、涙を零してしまうのかもしれない。
そんな追い詰められて狂ったボクを皆がそっとしてくれたのは、ボクがどれほどなまえさんを好きなのか、知っていたからなのだろう。

それからなまえさんは病院へと運ばれ、ボクは呆然とレストランから外を眺めることしか出来なかった。
日も傾き、皆やボクも落ち着いてきた頃。日向クンが戻ってきた。その表情はボクを安心させるように微笑んでいるが、引きつった笑みだった。嫌な予感がした。


「狛枝、」

「なんだい、日向クン」

「みょうじは大丈夫だ。命に関わることはない」


その言葉は本当なのか、それすら疑ってしまう。だが、それに縋りたいのも本当なのだ。
日向クンは言い辛そうに目を泳がせて、「ただな」と口ごもった。何かあるなら早く言ってほしい。なまえさんに何があるのか、知りたくて堪らない。


「……まだ目を覚ましてないんだ。だから、狛枝が一緒にいてくれないか?」


そんな申し出を断るわけがない。日向クンの肩を掴んで、「早くッ早く連れて行ってよッ!!!」と叫ぶのを堪え、「うん。もちろんだよ」と簡単な返事をした。日向クンが意外そうな表情をするので、「なに?ボクになにか付いてる?」と聞くと、日向クンは気まずそうに目を逸らしてから口を開いた。


「いや、狛枝なら俺の肩を掴んで『早くッ早く連れて行ってよッ!!!』とか叫びそうだったのにな、と思ってさ」

「ハハハ、ソウカナ」

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