探索して分かった事。それは現実のジャバウォック島と変わりない、という事だけだった。そんなことは分かり切っていたわけだが、ここまで忠実に再現されている所を見ると、改めて凄いと感じてしまう。
それは苗木くんと七海ちゃんを除く全員が改めて感じたようだった。


「食べ物が勝手に用意される、という事を考えるとこっちのジャバウォック島の方が楽かもね」


冗談でそう笑うと、皆は少し複雑そうな表情をしてから「そうかも」と声を揃えた。日向くんは虚無に一度陥ったのだから、その反応は当たり前だったのかもしれない。
話題が変わる頃、私は「しまった」と頭を抱えた。言ってはいけない事ではなかったのだろうか?日向くんにとっては辛い記憶には変わりない。私が謝ろうと口を開くと、それが分かり切っていたかのように、日向くんは「むしろ感謝してるよ」と笑った。


「え、」

「俺を希望に導いてくれた。七海にも感謝してる。
その状況がなかったら、俺たちは"俺たち"として外に出れなかった。だから、むしろ感謝してるんだ」


にかっ、と効果音が付くような、お日様のような笑顔。その笑顔には自然と安心できるような、そんな力があった。


「あっ」


そこに小さく声が上がる。その声の主は苗木くん。彼はなにか思い出したようで、「そうだった!!すっかり忘れてたよ」と苦笑を浮かべた。


「なにを?」

「七海さん、もうすぐ自由に外に出れるんだよ」


全員が「えっ」と声を揃える。その反応が面白かったのか、苗木くんはクスリと笑ってから七海ちゃんに向き直った。


「このプログラムだけじゃなくて、電子生徒手帳のようなタブレットにも自由に移動できるようになるんだ!!
それには後1週間ほどかかるらしいけど、皆と一緒に、より身近に生活できるんだ。移動できるのはジャバウォック島だけだけどね」


そう言い終わると、苗木くんは「どうかな?」と皆の反応を伺った。
しばらくの沈黙。苗木くんは少し焦ったような表情を浮かべたが、その後の私たちを見て、安心したように微笑んだ。


「本当かよ!?良かったな、七海」
「おめでとう、があってるのかな?良かったね、七海さん」
「嬉しいよ、七海ちゃん!!このプログラムが終わっても七海ちゃんといれるなんて」


捲し立てるような早さで七海ちゃんへの言葉が紡がれる。その早さに若干付いて行けなかったのか、七海ちゃんはしばらくポカンとしていた。私たちが一度口を閉じると、ちょうど七海ちゃんの思考が追い付いたようだった。


「うわぁ…ホントに!?嬉しいなぁ…みんなといれるんだぁ…嬉しいなぁ…」


しみじみとその幸せを噛み締めているのか、七海ちゃんは何度も「みんなと一緒かぁ…」と繰り返していた。
何度目かの繰り返しの時、七海ちゃんの目に涙が浮かんだ。七海ちゃんはゆっくりと俯く。それに慌てた私たちが「大丈夫?」と声をかけるが、七海ちゃんからの反応はない。


「七海ちゃん?」

「…嬉し泣き、だよね…これ。ありがとう…ホントに…っ」


顔を上げた七海ちゃんの表情は本当に幸せそうで、私たちはつられて笑った。こっちも泣きそうだ。


「さ、皆にも報告しに行こう。皆が泣かないうちに」


茶化すような苗木くんの言葉に「苗木くんも泣きそうじゃん」と返してやる。苗木くんは「バレたかぁ」と冗談っぽく笑った。
現実に戻る日が楽しみになってきた。

本当の現実に戻る日が来なくても、私は前に進もう。希望を持って進むんだ。

なんて、苗木くんっぽく言ってみたり、ね。

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