苗木くんは腕に抱いたウサミちゃんを教卓の上に置き、アイランドモードの説明を切り出した。その説明とは実に簡素なものだった。


「まず、ここではいつも通り暮らしてもらいます。採集もしなくて大丈夫だよ。
目的は未来機関の警戒を和らげる、という表面上の計画だからね。別に無理強いするつもりはないんだ」


そう言ってから、苗木くんはぐるっと教室を見回した。不満そうな生徒を物色してるのだろうか。いや、そういう意味ではないだろう。


「50日間をこちらの世界で過ごす。ただそれだけだよ。ちなみにカケラは勝手に集まっていくからね。
なにか質問は?」


その簡素な説明に質問、疑問がある生徒なんかいるのか、と思う。苗木くんはそれがいない事を確認すると、「じゃあ解散!」と声をかけた。
この教室から出て行く人がほとんどで、この密室状態の教室に残ったのは凪斗、日向くん、七海ちゃん、苗木くん、ウサミちゃん、私の6人だけだ。ウサミちゃんはとてとてと歩いてきた、と思ったら七海ちゃんの膝に飛び乗った。かわいい。


「皆さん、お久しぶりでちゅね」

「そうだな」
「そうだね」

「みょうじさん、でちたよね?嬉しいでちゅ!緊張せずに過ごちてくだちゃいね。らーぶらーぶ」

「はい」


あの名言を目の前で言われた、この感動。これはクセになる「らーぶらーぶ」である。心癒される。


「みょうじさんは初めまして、だもんね。分からない事があったら、私でもウサミちゃんでもいいから言ってね?絶対、力になるから」


心強いその一言に、思わず首を縦に振った。その反動で首からゴキッと鈍い音がしたが、気にしたら負けな気がした。
その音が聞こえたのか、ウサミちゃんは私の近くに歩み寄りにこっ、と微笑んだ。


「痛かったらちゃんと言ってくだちゃい。力になりまちゅ。
みょうじさんもあちしの大切な生徒なんでちゅからっ!!」


えっへんっ、とでも言いたげに胸を張る。こんな良い先生がいなくなった、だなんて涙が出る。
ウサミちゃんは私の「ありがとう」の一言に幸せそうに頷いてから、その場にいる全員の顔を見回した。


「もちろん、みょうじさんも、日向君も、狛枝君も、七海さんも…あちしの大切な大切な生徒でちゅ!!らーぶらーぶ」


ウサミちゃんはそう言うと、苗木くんを含めた全員を外に押し出した。ウサミちゃんが満足そうに手を振っている。


「頑張ってくだちゃいね〜!!」


ウサミちゃんの一言にクスリ、と笑い合う。とりあえずゲームの中のジャバウォック島を探索することにした。

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