苗木くんの後ろをついていると、苗木くんは前を見ながら話しかけてきた。
「みょうじさんはボクが持つけど、それでいいかな?」
管理する、という意味だろう。私は頷きながら「はい」と返事を返した。
「うん。じゃあ、ここではキミは"超高校級の絵師"で通すね?その方が都合がいいだろうし」
それでいいです、と頷く。狛枝くんは別だろうが。
「それと、ボクがジャバウォック島にいない時は皆の世話を頼めるかな?
特に狛枝クンは起きたばっかりだからね」
「…アイツ苦手です」
「ははっ、分かる気がするよ。でも頼むね」
ちなみに拒否権は、と言いそうになって飲み込んだ。ないに決まっている。失礼だ。
しばらく機械の間を歩いていると、部屋に通された。
部屋は機械がごちゃごちゃしていて、私にはよく分からなかった。
が、苗木くんは理解しているようで、ベッドに寝かされた私の頭とかにペタペタと貼り付けていった。
数分後には貼り終わり、苗木くんは近くにあった椅子に座り、画面を眺めていた。
「本当に侵入したわけじゃないんだね?」
「はい。侵入なんてありえません」
「誰かの差し金、とかは?」
「ないです」
淡々と質問に答えていく。苗木くんも結構、淡々としている。作業しているようだ。
それもすぐ終わり、普通の雑談に変わった。
時々、別のものを貼り付ける時に動くだけで、私は動かずに天井を見つめている。
「みょうじさん、って呼びにくいから名前で呼んでいいかな?みょうじさんも敬語外してもらっていいよ」
なんの乙女ゲーですか、これ。
まぁ、トリップ補正だよな、とか思いながら一応、了承することにした。
「いいですよ。でも、私高校卒業したばっかりなんで、年上なんです。苗木くんって」
「そうなんだ。それでも構わないよ?特に年齢とかは気にしないタイプだから」
「じゃあ、敬語外して苗木くんで」
「じゃあボクは…なまえ…なまえさん…どっちがいいかな?」
私に聞かないでくれ。
うーん、と可愛らしく首を傾げている苗木くんを見ていると、キュンとする。可愛い。撫でたい。
動けない原因の繋がっている機械を睨みながら、苗木くんに「どっちでもいいよ」と言った。
「うーん…じゃあ今はなまえさん、で」
今は、ってなんですか。いつか呼び捨てですか。やっぱこれ、なんの乙女ゲーですか。
そう心の中で突っ込みながら、「いいですよ」と頷く。その時に1つ機械が外れてしまったらしく、苗木くんは慌てて機械を貼り付けた。
「…ごめん」
「いいよいいよ。こちらこそ、いきなりごめんね」
それこそいいよ、だ。
優しげに微笑む苗木くんにキュンとしながら、私もつられて微笑んだ。
「未来機関って、苗木くん以外にもいるんだよね?」
「うん。ボクはほとんどジャバウォック島にいるけど、他の人は週に1回来るくらいかな。交代制なんだ」
「交代制、ってことは全員にすぐには会えないんだ」
霧切さんとか十神くんに会ってみたかったな…
少ししゅん、としていると、苗木くんは苦笑しながら「それは違うよ」と柔らかめにお決まりのセリフを言ってくれた。
生「それは違うよ」感動だ。
「大体の人は2人1組で来るから、すぐに会えるよ。十神クンとかは1人で来たい、って言ってたけど腐川さんがついて行きたがるから…」
「モテモテだ」
「そうかもね」
ぷっ、と笑いあう。
苗木くんはしばらくして、私が十神くんの事を知らないと思ったらしく、十神くんや全員の話をしてくれた。話している苗木くんは、とても嬉しそうで自然と顔が緩んだ。
それから、10分ほど雑談をして検査は終わった。
「はい、終わり。なんの異常もなしだから、未来機関も許してくれると思うよ。そうだ。狛枝クンを呼びに行ってくれないかな?次だから」
「…はーい。了解しました」
「狛枝クンを呼んでくれたら、1つ何かしてあげるよ」
「子ども扱いだー」と笑うと、苗木くんは「ご褒美だよ。なまえさんは狛枝クンに会うのも苦痛そうだからね」と読心術でも使ったのか、と思う回答をしてくれた。
でも、苦痛ってわけじゃないんですよ?苦手なだけ。
「じゃあ、楽しみにしてる」
「ん。なまえさんも他の人に挨拶してきたらいいと思うよ」
「はいよ」
じゃあねー、と手を振ると、苗木くんは手元の資料を見ながら、手を振り返してくれた。
さて、挨拶回りに行きますか。
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