それから1時間、私のライフは着々と0に向かっていた。凪斗とふたりっきり(実際には2人だけじゃなかったが)になると、私の心臓が持たない。愛の言葉を囁かれ続けるのだ。それも一方的に。
ちょうど12時15分前。私たちはレストランを後にすることにした。移動している間も凪斗は囁き続ける。吐息のエロい緒方ボイスに囁かれる、なんてどれほど鼻血もんか。
「そんなに私のことが好きなのかっ!!?」
そう八つ当たりのように声を荒げると、凪斗は涼しい顔で、
「うん。大好き」
そう宣言するのだ。聞いた私がバカみたいに思えてしまう。そして、その質問の仕返しなのか凪斗はイタズラっぽく笑って尋ねてくるのだ。
「なまえさんはボクの事、好き?」
ああ、ムカつくっ!!
やけになって、
「大っ嫌いっ!!」
と答えてやる。すると、彼は心底残念そうな表情を浮かべて「…そ…っかぁ…」と泣きそうな声で言うのだ。
それに釣られる私もどうかと思うが、それを見た私はとっさに言ってしまう。
「嘘!!大好きっ!!」
「本当?ふふっ、幸せだなぁ」
「ごめん、今のが嘘で」
「…え…」
「やっぱホント!!」
やっぱり相手のペースに乗せられてしまうのだった。敵わないな、と思う。
懐かしい部屋に着くと、もう大体の人が集まっていた。まだ苗木くんに説明を受けていない人は、今説明を受けているようだ。
その5分後、全員が集まった。未来機関の大人組は忙しそうに奥の部屋などに行き来している。プログラムの確認が最終段階まで来ているようだ。
そして12時。
「じゃあ今からひとりずつ入ってもらうね。まずはーー…」
その苗木くんの声で、その場にいる人がどんどん減っていく。皆の表情は清々しく、迷いや不安はないようだった。そして残った生徒組は日向くん、凪斗、私の3人になった。次は日向くん。
「いってらっしゃい」
「あぁ。また後でな」
そんな軽い挨拶を済ますと、日向くんはカプセルに入って行った。ぼんやりと緑の光が浮かび上がる。どうやら行けたようだ。そして次は凪斗。
「いってらっしゃい」
「うん」
幸せそうに笑うと、凪斗はすっと私の頭に手を置いた。この場にいるのは苗木くん、響子さんだけだが、恥ずかしいことに変わりはなかった。私の前髪をその白い手で上げたので、なにをするのかと思ったが凪斗には迷いがなかった。隠すものが上げられ露わになった額に、ほんのりと体温が伝わってくる。凪斗の顔が近付いた事、ちゅっとリップ音が響いた事から、分かったのは彼が額にキスを落とした、という事。
冷静に解析をし終わると、実感が湧いて顔に熱が集まった。キッと凪斗を睨み付けると、凪斗はイタズラっぽく笑ってからカプセルへと向かった。
「後でね、なまえさん。…あ、苗木クンもね」
カプセルへと入ると、凪斗を緑色の光が包み込んだ。こんな恥ずかしくも気まずい空気に残していきやがって、と悪態をつく。とっさに苗木くんと響子さんに向かって「いってきます!!」と声を上げ、カプセルへと向かった。
苗木くんたちは苦笑いを浮かべて、手を振っていた。カプセルへ入ると、眩しいほどの光が視界を奪った。それと共に意識がフェードアウトし、私はゲームの世界のゲームの中に入ったのだった。
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