狛枝くんと一緒に堂城さんを引っ張り出すと、澪田ちゃんの「アッツアツっすねっ!!」の言葉で質問責めされることになった。「付き合ってるの!?」「狛枝ァ…」「なんでアイツなんかと!?」「どこがいいの!?」などと狛枝くんに失礼な言葉が飛び交う。そのひとつひとつに答えるのは、とても面倒臭い。


「また話すから、先に食べさせて…」


のげっそりした私の声で、皆は離れてくれた。とりあえず花村くんに頼み、朝食を作ってもらうことにした。狛枝くんは私の前に座り、狛枝くんの隣に日向くん。私の隣に苗木くん、というなんとも懐かしい光景が広がった。堂城さんは霧切さんと相席をしているようだ。なんだかんだで、あの二人はお似合いだと思う。


「狛枝クンは退院したんだってね。おめでとう」

「だからここにいるんだな。俺からもおめでとう」

「ありがとう」


やはり二人の前ではへらへらと笑っている。幸せそうなのだが、私に見せる笑顔とは少し違った笑顔だ。


「そうだ、プログラムはどうするの?」

「あ、その事なんだけどね。今日の昼12時から、皆は一人ずつプログラムに入っていく。なまえさんは生徒としては1番最後。今回は僕も教師側として参加するんだ。とっさに対応できるように」

「あぁ、そういえば十神クンがそんな事を言っていたね」

「うん。堂城さんは未来機関への対応をお願いしてる。皆が気持ちよく厚生できるようにね」

「それって気持ちいいのか」


日向くんのツッコミで場の空気が一気に和む。それと同時に花村くんがトレイを持ってきてくれた。こちらの世界に来てから、舌が肥えた気がする。


「12時と言っても、もう2時間後なんだけどね。それまでは自由時間だけど、10分前には来ておいてね」


そう言って口にカップを運ぶ苗木くん。そんな大人っぽい仕草が意外にしっくりくるのだから、不思議だ。

食べ終わり、ふぅと一息つく。ゆっくり食べていたから、プログラムはちょうど1時間後になる。日向くんたちは先に食べ終わると、すぐに席を立った。狛枝くんもずっと前に食べ終わっていたが、コーヒーを飲みながらずっと待っていてくれている。


「お待たせしました」

「…別にいいよ。あぁ、そうだ。なまえさん」

「はい?」


トレイを厨房へ持っていき、帰ってくると狛枝くんが口を開いた。レストランにはほとんど人がいなくなっている。いるのは、豚神くんと厨房に花村くんだけだ。未来機関の大人組はプログラムの最終確認に行ったし、他の人たちは満足が行くまで過ごしているのだろう。


「なまえさんの淹れたコーヒーって美味しいんだって?ボクにも淹れてよ」

「えー…こま…凪斗の好み分からないし…」


一瞬、狛枝くんと言おうとしたが、キッと睨みつける灰色の双眼に言い直すハメになった。いきなり狛枝くんから凪斗、なんて違和感が仕事を破棄してくれない。狛枝くん、だから凪斗くん、かと思えば凪斗くんなんて小学生みたいだ。それじゃあ凪斗さん、と言えば新婚か、とツッコミたくなる。もう狛枝くんでいいじゃないか、と思うのだが本人が許してくれないようだ。


「いいから」

「…ハイハイ」


厨房に行き、花村くんのナンパを他所にコーヒーを淹れ始める。狛枝く…凪斗の好みなんて分からない。ここで不味ければ、酷いことになる。が、それも淹れ始めたらどうでも良くなった。不味くても私になにかあるわけじゃない。


「はい。舌にあうかは知らないけど」

「ありがとう」


テーブルへ戻り、淹れておいた私の分をすする。狛え…凪斗はじっ、とカップを見つめてから口にした。どうだ、まずいか。喉がコクと動いたのを見て、私は凪斗の感想を待った。凪斗、ってやっぱり違和感。


「おいしいよ、なまえさん」


幸せそうに笑った。なんだ、よかった、などの色々な感情が渦巻く。私は嫌だ、と言って欲しかったのか、私の阿呆め。
私の心の中の葛藤を知らない凪斗は、もう一口飲むと「うん。毎日飲みたいくらい」と綺麗に笑った。これは「お前の味噌汁飲みたい」のコーヒーバージョンって事ですか。なにそれおしゃれ。


「じゃあ…12時まで喋っとこっか」

「…え」

「なに?嫌なら嫌って言ってよ、凡人」

「少しくらい凡人扱いやめてくれませんかね。凡人って呼ぶなら、一生狛枝くん呼びだからね」


少し反抗して見せると、凪斗はあっさり折れた。「ごめん。もう言わない」と言うではないか。お前はどんだけ狛枝呼びされたくないんだ。その私の言葉が聞こえたのか、凪斗は口を開いた。


「だってキミも"狛枝"になるんだから、狛枝呼びはおかしいでしょ?」


そんなきょとんとしながら言われても。純粋なのか捻くれているのか、コロコロと変わる狛枝くんはよく分からない。でも、少しネジが抜けているのは事実だ。


「ね?狛枝なまえさん」


そんな恥ずかしい事を言ってのける。私はコーヒーカップを避難させて、テーブルに突っ伏した。

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