着替えを済ませ、狛枝くんの着替えも手伝い終わる頃には、外の騒がしさは嘘のように静かになっていた。


「…で、3本の薔薇、ってどういう意味よ」


静かな事をいい事に、そらされた話を引っ張り出す。狛枝くんはそれを聞いた途端に、「自分で調べなよ」とそっぽを向いてしまった。
花言葉に載っているだろうか、と私は机の上に置いてあった本を手に取る。狛枝くんは私の行動を尻目に、優雅にコーヒーを嗜んでいた。
まずは薔薇のページを開いてみる。薔薇の花言葉は色によって違うようだ。例えば赤は『愛情』や『愛している』など。黄色は『嫉妬』などと少し怖い。白は『尊敬』。青は『奇跡』…狛枝くんにぴったりだ。なんとなく、狛枝くんは某フリーホラーゲームの人に似ていなくもない。
薔薇の花言葉の下には呼び欄があった。他のどの花にもなかった欄だ。題名は『本数によって変わる花言葉』。これだ。


1本の薔薇…『一目惚れ』

3本の薔薇…『愛しています』

7本の薔薇…『密やかな愛』

11本の薔薇…『最愛』

99本の薔薇…『ずっと一緒にいよう』

108本の薔薇…『結婚してください』

999本の薔薇…『何度生まれ変わってもあなたを愛す』


…毎月「愛してるよ」と言われ続けるということだ。なんと恥ずかしい。
3年間、という月日はどこからやって来たのだろうか…?さすがに3年後には狛枝くんたちは、更生し終わって、ジャバウォック島にはいないと思うが。おそらく未来機関で働くことになるだろう。


「狛枝くん、」

「…」

「狛枝くん、」

「…」


無視か。心なしか、狛枝くんの表情が不機嫌に見える。今の一瞬でどこに不機嫌になるのか、その原因を教えてほしい。


「…名前」

「は?」

「…もう言わない…自分で理解すれば?」


ムカつく。狛枝くんの言い方にムカつきながら、狛枝くんの言った言葉を思い出す。名前、と言ったわけだが、名前がどうした。凪斗が…
そこで私は思い出した。狛枝くんに凪斗と呼べ、と言われたじゃないか。単なるワガママか、とさらにムカついてしまう。


「…凪斗、」

「なに?」


この清々しい「勝った」と言わんばかりの笑顔に、この即答っぷり。私はまんまと罠に引っかかったようだ。


「なんで3年間、なんて期限をつけたのよ。3年後なんてこの島にいないでしょう?」

「計算すればいいじゃないか。一回くらい、その残念な頭で」

「…うるさい」


クスクスと上品な笑い声が耳に届く。なにが一回くらい、だ。いつもこの残念な頭で考えてるっての。そんな心の中での不平不満はさて置き、私は暗算ながらも頑張ってみることにした。
X本÷3本=12ヶ月×3…


「…ひゃく…ひゃく、はち…?」

「正解」

「108ってなんの…」


そこで本の一章説が自然と頭に浮かんだ。


…ーー『108本の薔薇…結婚してください』


ああ…なんで…


「"3年後なんてこの島にいない"。その通りだと思うよ。だからこそ、3年後なんだよ」


…なんでコイツは私を縛るのか。なんで私を惑わすのか。

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