…ーーホテル、公園、コテージ、レストラン…あとは砂浜。
私はジャバウォック島を駆け回った。いや、探し回った。狛枝くんに自覚したこの気持ちを伝えなければ。そう焦っていたのかもしれない。伝えなければ、狛枝くんは私を嫌うかもしれない、という恐怖があった。
…たとえ叶わないとしても、気持ちだけでも伝える。それが日向くんに対しての感謝のひとつだ。送り出してくれてありがとう、と。


「…あっ、なまえさん」


砂浜を走っていると、聞き慣れた苗木くんの声が耳に届いた。苗木くんは爽やかに「探し物、かな?」と笑っている。


「探し物、といえば探し物かなぁ」


とぼけてみれば、苗木くんは「ははっ、そっか」と首をすくめた。若干、苗木くんに違和感を感じた。


「…ーー狛枝くんから聞いたよ。狛枝くんの"気持ち"をね」


そこから苗木くんは聞いてもいないのに、寂しそうな笑顔を浮かべて話し出した。話さなければいけない、何かが壊れる、と苗木くんは思っているのかもしれない。そこはとても私と似ている。


「…彼は怖いんだって。なまえさんの"気持ち"が。もしかしたら…嫌われているのかもしれない。そんな恐怖の中で生きてるんだって」


そこで区切り、苗木くんはじっと私の目を見つめた。それも十数秒だったが、苗木くんは何か分かったように笑った。


「そんな心配、必要ないみたいだね。
…なまえさん、頑張って。ボクもキミの背中を押すよ。悔しいけどね」


苗木くんは砂浜に生えているヤシの木を指差した。「あそこで待ってくれてるよ」と言うから、狛枝くんがあそこにいるのだろう。
素直に「ありがとう」と言うと、苗木くんは照れたように笑った。行こう、と足を踏み出すと「あ、待って!」と制止の声がかかった。振り向くと、可愛らしくはにかんだ苗木くんが私の目を見つめていた。


「最後にいいかな?」


その言葉に「うん」と答えると、苗木くんは「ありがとう」とまたはにかんだ。


「…えっと、ボクもなまえさんの事が好きなんだ。でも、それは叶わない、って気付いちゃった」

「いつから…?」

「だいぶ前」


その答えに自分でもビックリした。だいぶ前から、私は狛枝くんに想いを寄せていた、ということか。
そんな疑問が分かったのか、苗木くんは苦笑いを浮かべた。


「お互いに気付いてなかったんだと思う。多分、今回の物資支給でお互いの存在がどれほど大事だったのか、という事を自覚したんだろうね」


離れてみてやっと分かる、という家族の大切さと似たものか、と納得した。
そこで苗木くんの「話を戻すね」という一言で意識がハッキリした。


「だから、サポートするカタチでなまえさんを応援する、って決めたんだ。だから今では後悔はしてない。
でもひとつだけ。言っておくだけだから、ね?」


私が肯定を示して頷くと、満足そうに笑って息を吸い込んだ。




「…ーーボクはキミに惹かれていたんだ。
大好きだったんだよ」




その言葉。嬉しい、と素直に思える彼の言葉。それは彼の言ったとおり、後悔はしていない、ということを表しているようだった。
苗木くんはそれだけ言うと、顔を真っ赤に染めながら「頑張って」と背中を押してくれた。

…ーーありがとう。

ただその一言を苗木くんに伝えよう。そう決めて、私は狛枝くんへと近付いた。

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