落ち着いた狛枝くんをベッドに座らせ、話を聞く事にした。いきなりの告白は、その際だから置いておく。
「で、狛枝くん?」
「…なに?」
「あの花はどういう?」
「そんな事も分からないなんて、みょうじさんは残念だよね」
ムカッ。
どうやらいつもの悪態をつく狛枝くんに戻ったようだ。その狛枝くんは「はぁ」と大きなため息を吐いてから、仕方なさげに話し始めた。
「…花言葉通りだよ。キミの残念な頭だから分からないだろう、と思ったんだけど…分かっちゃったみたいだね。
分からなかったら、何食わぬ顔で優しく過ごすつもりだったけど」
「…は?なにそれ」
「3日も空いたから、キミはボクを忘れてるんじゃないか、って思ったんだ」
ムカムカッ。
明らかにバカにされている。3日くらいで私が忘れるとでも思っていたのだろうか。その質問をぶつけてみると、狛枝くんは動揺を隠し切れていないようだった。「えっ…違う、え?」とバカにしたように笑った。
それにムカついた私は「いくら凡人でも、そこまでバカじゃない!!」と声を上げてしまった。狛枝くんはその声にビックリしたのか、肩が大きくビクリと揺らした。その勢いで顔を俯かせてしまう。
「…ぃ…んだ…っ……ぃ…っ…」
小さい声でボソボソと呟く。聞こえなかったから「え?」と聞き返すと、狛枝くんはバッと真っ赤に染まった顔を勢いよく上げた。
「…ーー寂しかったんだ!!少しくらい…」
そこで狛枝くんは、自分の顔が真っ赤なことに気付いたようだった。歯を食いしばるように、こちらをキッと睨み付けて、
「…甘えてもいいじゃないか…っ!!」
そんな恥ずかしいセリフを吐いたのだった。聞いているこちらも恥ずかしくて、顔に熱が集まってしまう。八つ当たりのように狛枝くんへの悪態をつき、ため息を漏らした。
「な、によっ、よくそんな恥ずかしいセリフを吐けるねっ!!?」
「ボクだって恥ずかしいよ…っでも、これくらい言わなきゃ…キミは理解しないじゃないかっ!!」
「な、私だって理解できるよ…っ」
「はぁ?キミみたいな凡人、できるはずないでしょ!?」
俗に言うケンカップル、というものだろう。だが、そんな単語は今の私たちに関係なかった。お互いの喧嘩しか眼中になかったのだ。
「ボクがどれほどキミが好きだ、なんてッ!!」
「…ーー私だって好きなのッ!!狛枝くんだって、理解してよッ!!」
そこでやっと理解したのだ。
…ーー私は狛枝くんが好きだ、ということを。
お互いに自分が失言したことを気付いていないようだった。私がなにも言えずに、金魚のように口をパクパクしていると、狛枝くんも自分の失言に気付いた。
「…〜ッ!!」
真っ赤に染まったお互いを睨み付けていると、いきなりドアが開いた。聞き慣れた青年の声が2人分。
「起きてるか?みょうじ」
「おはよう、なまえさん」
その2人は私たちの姿を確認した途端、ポカンと口を開けて「え?」と声を揃えた。こんなに真っ赤な私たちを見たことがないのだろう。
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