白いTシャツの上に水色のパーカーを羽織り、ドアの向こうにいるだろう狛枝くんを睨みつける。このドアを開けなければ、狛枝くんが怪しんで入ってくるかもしれない。
この真っ赤な顔をどうにかしてほしい。この心臓の高鳴りをどうにかしてほしい。

…ーーこの気持ちをどうにかしてほしい…っ!!


また顔に熱が集まる。ベットの上で頭を抱えていると、私の悪い予感が的中した。
ガチャ、とドアが開いたのだ。「みょうじさん、どうかした?」という聞き慣れた緒方ボイスと共に。


「…ーーこっち見んなッ!!」


恥ずかしくて、声を荒げてしまう。狛枝くんはそれにビックリしたようで、「…みょうじさん…?」と訝しげに近寄ってくる。くるなくるな、と心の中で呪文のように唱えて、さらに深く頭を抱えた。


「みょうじさん、本当に大丈夫…?」

「大丈夫だからッ」


ギシッとベットが軋む音がした。ちらっとその音の元凶を見てみると、ベットに座り、心配そうな表情で私を眺める狛枝くんの姿があった。その瞳は心配そうであり、愛おしそうだ。


「…なんで、そんなに…優しいのかなぁ…っ」

「…なんで、って」

「3日前まで悪態ばっかだったのに」


その言葉には言い返せないようで、狛枝くんは「…そうだね」と申し訳なさそうに呟いた。
これがいっそ夢で、覚めた時には「なんだ、みょうじさんか」と悪態をつく狛枝くんがいればいいのに。この狛枝くんは調子が狂う。


「…確かにそれがボクだよ。それもボクなんだ」

「…なにそれ…」

「それでも…あ、」


狛枝くんの言葉が途中で途切れた。こちらに視線がないことから、他を見ているのだろう。顔を上げてみると、狛枝くんは自分が置いた花瓶を眺めていた。


「…あの、本…まさか…っ」


ばっとこちらを振り向いた狛枝くんと、目があってしまう。彼の顔は私に負けず劣らず真っ赤に染まっていて、私はなにが起こっているのか一瞬分からなかった。
ベットのスプリングがまた軋み、狛枝くんはベットから遠ざかっていた。早足で近付き、花瓶の近くに置いた本を持った。その本の表紙をじっと眺めてから、私の方にその本を投げつけてきた。


「い…ッ!!?…なにすんの!?」

「なんで分かっちゃうのかなぁっ!?ボクは凡人であるキミの頭にかけたのに…ッ…ボクの、気持ち…分からないでよ…ッ!!」


わけが分からない。
真っ赤に染まった顔を隠すため、狛枝くんは口元を手で覆った。視線はまっすぐにこちらを向いていて、その視線にたじろいでしまう。


「凡人の、キミなんかが…ッ!!」


そこで一旦、言葉を区切る。酸欠なのか、と思うほどに肩が上下に動いていた。


「…なんで…ッ…キミなんかが…!!」


そう言いながら、狛枝くんはこちらに近付いてきた。表情はその長い髪で完全には分からない。ベットの前までくると、彼は私の持っていた本を取り上げ、テーブルに置いた。

ガッと手首を掴まれた。狛枝くんは無表情で見下ろしている。狛枝くん私が「いたっ」と声を上げるまで、ギリギリと手首に力を入れていた。私が悲鳴を上げなければ、そのまま力を入れ続けたかもしれない。




「…ーーなんでキミなんかが、ボクの心を揺さぶるのかなぁ…

…なんでキミなんかを…


好きになっちゃったのかなぁ…ッ」




震える狛枝くんの声を聞いて、やっと状況を理解した。
狛枝くんが赤くなっている。狛枝くんが震えている。狛枝くんが、私を愛してくれている。


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