作り終わったアクセサリーをもらい、コーヒーをたしなむ苗木くんたちの元に戻ると、響子さんと堂城さんも戻っていた。2人は無表情で、この買い物中は必要最低限しか話していないことが伺える。


「たくさん買ったのね」

「うん。楽しみにしてて」

「全部みょうじさんのではないんですね」

「そこまで貪欲じゃないです」


そんなに貪欲に見えるのか、と若干ショックだ。トランクに入れるのか、と聞かれたが、自分で皆に渡したかったので断った。
それから1時間ほど店を回って過ごした。時々、欲しいものを買ったりするだけだった。響子さんの「もうすぐジャバウォック島への船が着くわ」との声で船着場に行くことになった。
堂城さんは行くことに迷っているのか、そわそわとしていた。


「大丈夫ですよ、堂城さん。皆、いい人ばかりです」

「…ええ。分かっています」


「緊張しているだけです」と言う声は若干震えていて、納得できるのかできないのか分からない。だが、彼の瞳はまっすぐで怖がっているのではない、という事が分かった。
しばらくすると、船が見えてきた。波を起こしながら、船着場に着いた頃には堂城さんの震えも治まっていた。トランクを運び込み、船が汽笛を上げてまた波を起こしていく。


「…皆、元気かな」

「たった2日なのに、結構な時間が経っているような気がするな」

「本当だねぇ」


クスクスと笑い合う。ふと買った本が入った袋が見えた。その本を取り出し、酔いそうだが構わずに開いてみる。


「なんの本だ?」

「誕生花と花言葉の詰まった本だよ」

「…へぇ。俺はなんの花なんだ?」

「えっと、1月1日だっけ」


ページをめくれば、すぐに出てくる1月1日のページ。私が日向くんの誕生日を知らない、とでも思っていたのか日向くんは恥ずかしそうに「…なんで、誕生日…覚えてくれて…」と赤くなっている。なんとも年相応の純粋な反応だろうか。
ページを皆に聞こえるように読んでみる。日向くんが聞いていなければ意味がないのだが、俯いていても聞いてくれているようだ。


「1月1日の誕生花は…フクジュソウ、って言って黄色い可愛らしい花だよ。花言葉は…"幸運"」


福寿草と漢字で書くようだ。名前だけでも縁起がいいのに、花言葉が幸運。太陽のような花は日向。1月1日という始まりの日で創。そんな解釈もできそうだ。


「幸運、って…狛枝や苗木じゃないのに」

「いいじゃん。じゃあ苗木くんは?」


急に話を振られると思っていなかったのか、手に持っていたタブレットを落としかけていた。「ふぇっ!!?」となんとも可愛らしい悲鳴を上げてくれるものだ。


「えっと…2月5日だよ」

「2月5日は、ネコヤナギ。あのふわふわした可愛いやつ。花言葉は…"自由"」

「自由、かぁ」


苗木くんは「意外だなぁ」とタブレットを手におさめながら呟いた。次は響子さん。


「響子さんは、10月…」

「10月6日よ」

「そうそう。10月6日はハシバミ。お菓子作りとかにも使われるんだって。花言葉は…"仲直り"」


仲直り。1でも見た苗木くんとのシーンは感動する。裏切りなんかじゃない。


「堂城さんは?」

「僕ですか?僕は7月4日です」


夏生まれか、と関係ないことを考えながらページをめくる。そういえば、狛枝くんは春だっけ。たしか4月28日。後で見てみよう。


「7月4日はネジバナ。小さいけど強い白い花。花言葉は…"思慕"」

「…思慕、ですか。確かにそうかもしれませんね」


そう寂しそうに笑う堂城さん。なにか慰めることが出来ればいいのに、と自分の無力さが歯がゆい。思慕…誰を慕っているのだろうか。

ペラペラとめくっていると、ちょうど4月28日を開いた。狛枝くんの誕生花はなんだろうか、と少しいたずら心がくすぐられる。
4月28日は日本サクラソウ。どことなく狛枝くん自身を連想させる儚げな花だ。そして花言葉は…"初恋"。
彼には縁遠い言葉だ、と笑いが込み上げる。他にはどんな花があるのだろう、とページをめくっていると、時間を忘れてしまっていた。「ふぅ…」と一息吐いた頃には、船はジャバウォック島に到着しようとしていた。

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