お互いに朝を過ごした頃、さっきまであくびをしていた苗木くんがキリッと言った。


「今日も買い物に行くわけだけど、気を付けてね。それと今日はチームを分けたんだ。分担して買って、今日で終わらすつもりだよ。じゃあ、発表しまーす」


ドラムロールが鳴り響きそうな続き。日向くん、響子さんは苗木くんを射殺すように見つめ、苗木くんの次の言葉を待った。


「公平にクジで決めたからね。文句はなしだよ。
Aチームは日用品、食材を担当。堂城クン、霧切さんの2人」


え、と当の本人たちが固まった。その光景に苗木くんは苦笑を隠せないようだった。「クジだから」と念を押すようにもう一度繰り返す。


「Bチームは衣服やアクセサリーなどの装飾品、皆のリクエスト品。日向クン、なまえさん、ボクの3人。
買い終わったら、好きなもの買ってもいいよ。どうせ未来機関の経費なんだから」


その言葉は未来機関の本部の人間の前で言っていいのか、と思ったが堂城さんはそれほど気にしていないようで、「あはは、経費は有り余ってますもんねー」と笑っていた。それでいいのか、未来機関。
そんな私の言いたいことが分かったようで、堂城さんは笑って教えてくれた。


「未来機関は絶望以外なら、なんでもOKなんですよ。日向さんたちは絶望らしいですけど、未来機関は絶望がいなくなるのであれば、と最近はプログラムに関しては前向きです。ただ存在が長引くのが嫌いなので、即急に処置を求めるんです」


「それもこれも、苗木さんたちのおかげです。希望が伝染したんです」と笑って付け加える。新世界プログラムに前向きになれば、日向くんたちは安心だ。殺される、などという物騒な事はないのだから。
その言葉に苗木くんは恥ずかしそうに、「ボクはたいしたことしてないから」と謙虚に笑った。


「じゃあそろそろ行こうか」


「はい」と返事をしながら、空のトランクのひとつを手に取った。白いトランクだったから皆のリクエスト品だろう。

希望ヶ峰デパートに着いたのは10時頃で、ちょうどデパートがオープンした時間のようだった。


「じゃあ、行こっか」

「うん」
「あぁ」


トランクを引っ張り、響子さんたちに手を振って別れる。それから私は、苗木くんに渡されていたリクエストの書かれたメモを見た。
…下着などの男性に言いにくいもの、特注のネックレス、参考書などの勉強道具、工具…など個性の詰まったリクエストだ。
まず私が行ったのはマツモトキヨコだ。言いにくいものである、生理用品や化粧品を購入するためだ。それを察したのか苗木くんたちはその間に、左右田くんのリクエストだろう工具を買いに行ってくれた。


「タッチお願いします」

「はい」

「ありがとうございました」


ピッとICO○Aのように支払いを済ますことができる。未来機関客人用のタブレットだ。
私は手のレジ袋を広い場所に行き、白いトランクに詰め込んだ。それとほぼ同時に、疲れた顔をした日向くんが帰ってきた。苗木くんの姿がない。


「…左右田の工具がどれか分からなくて…疲れた…」

「大丈夫?…というか、苗木くんは?」

「え?…あぁ、苗木は」


会話をしながらも日向くんの視線は、押し込んで詰めている工具に釘付けだった。入らないのだろうか。


「…十神に呼び出されてた。文句を言われてるんじゃないか?」

「あー、あるかも」


顔を見合わせて笑うと、「それは違うよ」と聞き慣れた声が響いた。声の主は案の定、苗木くんだ。その手にはまだタブレットが握られている。


「十神クンが連絡をくれたんだ。プログラムの修正が明日には終わる。1週間後には皆のアバターも完成するだろうし、もうすぐプログラムにかける、だって」


仕方ないね、とでも言いたげに肩をすくめ、苗木くんは手にあったタブレットをポケットに戻した。その笑顔が寂しそうに見えた、気がする。


「よし。さっさと物資支給を終わって、皆の元に帰ろっか」


寂しそうな笑顔はすぐに消え、いつもの苗木くんの笑顔に戻った。苗木くんの言葉にある人物を思い浮かべ、振り払うように頭を振る。ある人物、とは言わなくても分かる狛枝くんなわけだ。
日向くんと私が「はい」と返事をすると、ふっきれたように買い物を始めた。

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