翌朝、私はすやすやと眠る響子さんの隣で起きた。あの後、私たちは夕食を食べてすぐに寝た。それほど疲れていたのか、と自分でも心配になるほどだ。


「…おは…違ったぁ…」


しまった、という気持ちと恥ずかしさで頭を抱える。狛枝くんと間違ってしまった。こんな事が狛枝くんに知られてみれば…と思うと、なおさら恥ずかしくなってしまう。
膝を曲げて、そこに顔をうずめる。耳まで真っ赤になっていたら、さすがに隠しきれない。「うぅ…」と情けないうめき声を絞り出し、私は響子さんが眠っているベットから降りた。起こさないように、と気を付けて。


「おはようございます。みょうじさん」

「おはようございます」


リビングに行ってみれば、堂城さんが大人の香りを醸し出しながらコーヒーを一服していた。未来機関のスーツの上着は脱ぎ、着ているYシャツがすこしはだけていてエロ…いやいや、年の差が感じられる。


「よく眠れましたか?」


微笑んで、もう一服。その横顔と仕草も美しい。彼自身が美青年、という事もあるだろうが、今の堂城さんは素晴らしく大人である。やはり形容するなら、エロい一択。


「はい。私、どこでも寝れるのでぐっすりです」

「そうなんですか…僕はお恥ずかしながら、自分の枕じゃないと安心して眠れないんですよ」

「堂城さんの方が大丈夫ですか」


アハハと声を上げて笑う。ジャバウォック島のあの濃いメンツに囲まれていると、日向くんや苗木くん、堂城さんのような"普通"が癒しになるのだ。
苗木くんは小さいし、可愛いしで癒される。日向くんは爽やかで、高校生らしくて癒される。堂城さんは会ったばかりだが、思考は比較的凡人。紳士的な言動に癒される。乙ゲーにすれば、間違いなく売れるだろう。そこに狛枝くんのようなミステリアス狂人が加われば、絶対だ。


「堂城さんは朝、早いんですね」

「みょうじさんも人のことは言えませんけどね。朝は人間にとって、1番安心する時間ですから、起きないなんて勿体無いです」

「そうですね。気持ちがいいですし」

「みょうじさんとは気が合いますね。超高校級の先輩方はキャラが濃いので…」

「疲れるんですよねぇ…」

「…はい…」


はぁ、とため息を吐くと堂城さんは「僕も超高校級なんですけどね」と苦笑を漏らした。私も仮ではあるが"超高校級の絵師"なんだが、最近では特に気にすることもなくなった。つまりは肩書きだけになったのだ。


「疲れて悪かったわね」


堂城さんと話していると、不機嫌そうな響子さんの声が響いた。その声の方を見ると、響子さんは寝癖を手でなおしながら大きなあくびをしていた。


「き、霧切さん…」


げっとでも言いたいような顔を、隠すことなく表に出す。当たり前だが、それに不機嫌にならない人はいない。響子さんも例外ではなく、「なによ…私も嫌よ」と拗ねたように頬を膨らませた。失礼ながら可愛くていらっしゃる。


「なんで2人は仲悪いんですか?」


私の質問に霧切さんが即答した。その迷いの無さに私も堂城さんもびっくりしてしまう。


「あなたと狛枝くんのような関係よ」

「え、私っ?」

「ええ。顔を合わせる度に罵倒の言葉。そうでしょう?」

「…まぁ」


今となっては、狛枝くんがいることが当たり前となっているような…という気がするが、確かに罵倒だらけだ。狛枝は出会えば罵倒なわけだが、その罵倒が優しい。日本語が矛盾しているが、本当にそうなのだ。


「私たちもそんな感じよ」

「…確かに否定はしませんけど…」


チラリと一瞥するように堂城さんが響子さんを見やる。響子さんもその視線を感じ取ったのか、居心地が悪そうに身じろいだ。


「…お、はようー」

「…おはよ…」


眠たそうに寝癖のついた髪をなおす苗木くん、日向くんの朝の挨拶によって、そんな空気は終わった。

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