あり得ない答えに辿り着き、あぁと頭を抱えた私を見て、さすがに可哀想と思ったのか日向くんは「お、おい」と声をかけた。


「日向くんんッ…」


もう泣きそう、とその場にいた日向くんに抱きつく。
先ほどまでのピリピリとした空気はどこへやら。それは私でも思った。
それに日向くんは慌てたようで「おい、ちょっ」と声を荒げていた。


「本当にわけわかんないぃっっ」

「わ、わけわかんないのは俺の方だッッ!!」

「なんでジャバウォック島にいるの私…」

「それも俺の言葉だッッ」


スン、と鼻を啜ると日向くんは心配してくれたらしい。


「大丈夫か?」


と、まだ優しげな声音で尋ねた。
その声にまたスン、と鼻を啜る。日向くんはカウンセラーになれたんじゃないか、と思う。


「…とりあえず話してくれないか」


怪しくても、困っている人は放っておけない。そんな日向くんは良い青年だ、と改めて思った。
そんな日向くんはケースの近くにあった椅子に座り、話を聞けるようにしてくれた。
私がベットのような場所で半身を起こしているからか、お見舞いに来た病院内のような状況だ。


「…えっと、」


信じてくれるか分からないので、もごもごと口を動かすだけになってしまう。

日向くんは信じてくれるか?いや、日向くんが信じても、他の人たちは分からない。
それなら、全員の前で本当のことを言えば、信じてくれるかもしれない。
いや、ここは嘘でも吐いた方がいいのかもしれない。だが、それはそれで…、

なんて心の中で葛藤していると、ガチャッと扉が開く音がした。
二人してそちらを反射で見ると、そこには身長の低いぴょこっとアンテナ(?)が揺れる少年の影が。


「苗木ッ!?」


「日向クンがこっちにいる、って聞いてね。

…キミは誰…?」


日向くんへの声と、私への声が全然違う。トーンが一気に下がった。
日向くんは軽く「本人も知らないが、気が付いたらここにいたらしい」と説明してくれた。
苗木くんと思われる少年は、「へぇ…」とまだ警戒しているようだった。


「…本当に目が覚めたら、ここにいました…嘘だと思うのなら、嘘発見器でも作らせて試せばいいんですッッ!!」


左右田くんに、という言葉は飲み込んだ。
ここで名前を叫ぼうものなら、さらに面倒くさい事になる。


「…分かった。今は君のことを信じるよ。でも、疑いは晴れていない。ボクが君の管理を持つよ」


つまりは信じてないのでは…?
心の中で呟きながら、また言葉を飲み込む。更に面倒臭いことにするものか。

とりあえず感謝を言おうと思い、口を開きかけたが、私の言葉は隣のヤツによって邪魔された。
隣のヤツが目を覚ました事で、ケースが開いたのだ。


「狛枝ッ、大丈夫か!?」

「狛枝クンッ」


半身を起こし、眩しそうに目をこすったそいつ。おそらく、狛枝凪斗だ。
キョロキョロと辺りを見回す彼は、私たちの存在を目に映すと複雑そうな顔になった。


「そっか、ボクは負けたんだね…」

その言葉に日向くんと苗木くんは一瞬、悲しそうな顔をした。
すぐに笑顔に戻り、狛枝くんの体調を尋ねる。


「…大丈夫だよ…気分は最悪。左腕も最悪だけどね」


ふと左腕に目をやると、彼の言っている意味が分かった。
彼の左腕は"彼の左腕ではない"のだ。確か、江ノ島盾子の左腕を彼が自ら移植した、だったはずだ。


「…日向クンに…苗木クンだよね」


「あぁ」

「うん。初めまして、狛枝クン」


軽く挨拶を交わす。
この三人には、私の存在は空気と同じらしい。
それは良い事だ。変な事に巻き込まれない、なんてこと以上に幸運なことはない。

だが、その幸運はヤツによって不運に変わる。


「…で、キミは誰かな」


疑問形でもないその言葉。
有無を言わせない威圧感を含んだ言葉に、私は冷汗をかくことしか出来なかった。

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