服などの買い物が大体終わった頃、太陽は西へと沈んで真っ赤に空を染め上げていた。


「今日はこれで終わろうか?」

「そうね。本部にはこちらに長ければ、5日は滞在すると伝えているから、問題ないわ」

「そっか。ありがとう、霧切さん」


爽やかに可愛らしく微笑む苗木くん。それに照れた響子さんも可愛い。そして隣で荷物を抱える日向くんも彼氏っぽくて、とても爽やかだ。実に目の保養である。


「よしっ、じゃあホテルに行こっか」


「服は買ったのを先取りしていいからね」と言いながら、なにやらタブレットを触る。電子生徒手帳の未来機関バージョンだ。スマホ型のそれは、スマホだと言っても違和感は仕事しないだろう。


「…えっと、部屋は、」

「私となまえさんの二人部屋に決まってるでしょう?」

「えっ」


驚いて声を上げた苗木くんのタブレットが、地面とこんにちはしそうになる。慌てて掴み取り、自分の手に戻すが、明らかに苗木くんは動揺していた。


「なまえさんも女の子よ」

「あ、いや。あのね、霧切さん」

「…なに?」

「空いてる部屋が4人部屋だから、それでいいかな?」


その答えに不服なのか、響子さんは眉を寄せた。だが、苗木くんの「ベッドルームは2つだから」という補足で安心したのか、「ならいいわ」と頷いた。
「じゃあ行こっか」トランクに買った服たちを入れ、引っ張って歩き出す。希望ヶ峰ホテルという名の未来機関が運営するホテルは、ここから歩いて10分ほどの所にあるらしい。


「頼んだ部屋ってスイートルーム?」

「うん。なまえさんたちに酷い部屋に当たったら大変でしょ?それに、姿が見えて安心するから」

「あぁ…」


ああ、なるほど。ガラガラとうるさく鳴るトランクに苛立ちを感じながら、苗木くんの言葉に納得した。希望ヶ峰学園の生活で納得させられる言動になったのだろうか。


「ここは安全だけど、絶望の残党がいるかもしれないから…気を付けてね」


鋭くなった声音にビクリと肩を震わせる。日向くんも同じで、思い詰めたように俯いてしまった。
苗木くんの言葉。それは完璧なフラグである。この一級フラグ建築士が言うのだから間違いない。


「絶望の残党、ってなにするの?」

「…そうだなぁ…1番あり得るのは、暴力をふるってくるか、殺りにくるか、かな」


あら怖い。普通に口から飛び出すことも怖い。
私はだいぶ肝が据わった苗木くんを見て、そんな事を思うと同時に寂しく感じた。親の心、とでも言うのか。私の中の苗木くんは成長しない、原作の苗木くんだからだ。


…ーーガタッ、


トランクのガラガラとは違った、明らかな物音が響く。しかも私たちが歩く大通りから伸びている路地から。


「…気を付けて、」


そう小さくもハッキリした声音で耳打ちをする。「おそらく絶望の残党だから」やはりフラグだったわけである。そのフラグを回収したのは誰だ、と私になるわけだ。


…ーーカツンッ、カツンッ


静寂が私たちを包む。その静寂を邪魔するのは、物音を響かせたであろう人物の足音。苗木くんと響子さんは私たちの前に守るように立つ。日向くんの方を見ると、怯えた様子で「嘘だろ…」と呟いていた。


…ーーカツン、


止まった。相手が止まったことは分かるのだが、前に立つ苗木くんと響子さんのガードが予想以上に高く、顔を動かさないと見られなかった。
「よっ」と無意識に小さく声を上げ、背伸びをする。そこに立っていたのは、


「堂城クンッ!!?」


未来機関と思われるスーツを着込んだ青年だった。苗木くんが叫んだ"堂城クン"だ、という事が分かった。彼はこちらをじっと見つめていたが、ふと後ろに私たちがいると気付くと「あぁ…」と首を横に振った。


「なんの用?私たちは忙しくないのだけれど」

「僕は警告しに来たのです。今からホテルに向かうのでしょう?ご一緒します」


そう綺麗に微笑む堂城さん。一見、好青年である。しかも美青年。さっぱりとした短い黒髪に澄んだ青い瞳。日向くんに通じるところがあるとなんとなく思った。
彼は「堂城和也といいます。希望ヶ峰学園の第76期生で"超高校級の陸上選手"と言われていました。今は未来機関に所属しています」らしい。
響子さんは私と堂城さんの間に入りながら、「あら?」と首を傾げた。


「私の知っている堂城和也は"超高校級の紳士"と呼ばれていたはずよ?」

「…僕はその肩書きが好きではないんです。でも"超高校級の陸上選手"でスカウトされた、というのは間違いありません」

「そうね。それも人の勝手だわ」


どうやら響子さんは堂城さんがあまり好きではないらしい。


「堂城さんはなぜあんな路地裏から?」


率直に疑問を口にすると、彼は驚いたように目をこちらに向けて見開いた。「喋るんですね」その言葉から想像できる事は1つ。私は喋らない人だ、と思われていた事だ。それと彼は身のこなしは紳士だが、言葉はそこまで紳士ではないらしい。


「えっと、ですね。僕はあなたたちを尾行していました」

「尾行ですって!?」

「は、はい…でも僕が尾行したのは、デパートから出てからだけですよ」


響子さんは堂城さんのことがあまり好きではないが、堂城さんも響子さんは苦手らしい。


「そ、それで、大通りと言っても人は少ないのでバレるなぁ、と思い路地裏に…」

「結果、バレましたけどね」

「うぅ…ホ、ホントはホテルで登場するはずだったんですけど…」


性格は少し幼い。以上、私が分かったことまとめ。
ホテルに到着したのはそれから5分後ほど。最上階のスイートルーム、とのことで私のテンションは最高潮に達していた。日向くんも同じらしく、エレベーターで上がっている時に「最上階かぁ…!!」とそわそわしていた。


「すっごいっっ!!!」
「すっげぇぇっっ!!!」


部屋に着いた私たちの第一声。綺麗に被ったこともどうでもいい。ちょうど日は沈み、ポツポツと光のつく時間だった。綺麗、それしか言い表せない。


「ハイテンションな所、悪いんですけど…そろそろいいですか?」


堂城さんと2人のその深刻な表情、声に先ほどまで開いていた口がふさがる。日向君も同じ様だった。私たちは3人が座っているソファー、ベットに腰掛ける。それを待っていた堂城さんが重々しく口を開く。


「みょうじなまえさんの事なんですが…、」




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