洋服などを買い終わり、12時を回った頃、苗木くんのお腹が鳴った。恥ずかしそうに「昼食にしよっか」と笑い、私たちはその提案に、こっくりと頷いた。私たちもお腹はすいていたのだ。


「なにがいいかなぁ?なまえさんは何がいい?」

「なんでもいいけど…あ、今日のうちに買い切れない、なんてことはあるの?」


疑問を伝えると、苗木くんは響子さんとアイコンタクトをしてから、「そうだね」と頷いた。


「その時はホテルに泊まるんだ。ここから数分で着くんだけど、未来機関の運営しているホテルだからスイートルームでもタダだよ」

「未来機関ってなんでもやってるんだな」


その言葉に同意だ。日向くんは興味深そうにキョロキョロと見回すことがほとんどで、口をあまり開かなかった。
私たちが最終的に選んだのは、13階のフードコートだった。お互いの食べたいものがあるだろうから、と多くの種類の店があるフードコートにしたのだ。


「私はぶっかけそばでいいや」

「渋いね…なまえさん…」

「私におしゃれを求めてはいけないよ、苗木くん」


「ファッションセンスはおしゃれなのに…」と溜息を吐くのが聞こえたが、私は無視してぶっかけそばを頼みに行った。他にお客さんがいないからか、すぐに用意された。
トレイを持って向かったのは、窓側の席。他の皆はまだ待っているようだ。つまり、この13階からの絶景が、今は独り占めである。
都会のような騒がしさは残っている。それは私のいた世界も同じだ。だが、その先に少しだけ見える、鉄柱などの残骸たち。あれがこの世界の現実。絶望、とやらだろう。


「うま」


花村くんに負けず劣らず。喉に流し込んだそばが美味しかった。だが、少しは花村くんが勝っているかも、と考えていた。


「ぶっかけって…本当に女か?」

「ぶっかけ好きな女子だっているんだよ、日向くん」


「そうかもしれないけど…」と溜息交じりにサンマ定食を食べ始める日向くん。
ちなみに席は私の隣に苗木くん、前に日向くん、その隣に響子さんだ。苗木くんはなんだかんだで、私の隣を確保してくる。
私がそばをすすり、日向くんがサンマと格闘する頃、苗木くんと響子さんがトレイを持ってやってきた。
苗木くんはハンバーグカレーで、響子さんはコーヒーとベーグル。むしろ朝食だ、響子さんのチョイスは。


「ハンバーグって…かわい、いや、今のなしで」

「…うん、大丈夫…」


大丈夫、と言いながら大丈夫そうではない。どよーんとした空気が隣を流れている。これは慰めなければと思い、「そんな苗木くんも好きだからッ」と声を上げると、持っていたお箸からつるりとそばが落ちてしまった。


「…その言葉、信じるからね…?」


念を押すかのように改めて聞いてくる苗木くんに「信じろっ」と返す。すると、苗木くんは満足そうに深く頷き、カレーをぱくり。可愛らしい。
さすが江ノ島ちゃんのアルターエゴにさえ、『可愛いと評判の苗木誠クン』と評された事がある。目の当たりにして改めて分かった。


「…可愛いと評判の苗木誠クン…分かるわぁ…」

「え?なにか言った?」

「なにも言ってないっす」


最後の一口を口に運ぶ。じゃあデザート、とトレイを持って立ち上がる。このデパートも"希望ヶ峰デパート"なわけだから、なんでもタダなのである。電子生徒手帳の未来機関バージョンを持っていなければいけないのだが、私と日向くんにも特別にゲスト版のものが配られた。未来機関を"万屋"と名付けてもいい気がした。

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