その日のレクリエーションでは、各々の泳ぎ方、誰と泳いだ、などが報告された。狛枝くんは最初は不機嫌そうだったが、自分の番になると少しは機嫌がなおった様だった。
「皆で泳いでいる間、ずっと病室にいたよ。みょうじさんに星の砂をもらったんだけど、ボクは希望の皆からもらいたかったな」などと発表していたが、なぜ私の名前を強調した。そんなに嫌だったのか、と今更思う。


「はい、これで最後だね。で、ボクからのお知らせ。さっき未来機関の皆が到着したんだ」


「入ってきて」とまるで転入生の紹介のように促す。そこに入ってきたのは腐川ちゃん、朝日奈ちゃん、葉隠くんの3人だった。腐川ちゃんの姿を確認した十神くんがげっ、と声を小さく上げた事に気付いてしまったのは、この際置いておく。


「ボクたちと同じ…言い方が悪いかもしれないけど、生き残りだよ。えっと、」


並んだ事を確認すると、苗木くんは紹介を始めた。最初にボリュームのあるドレッドヘアーが特徴の男性を指す。


「葉隠クン」

「葉隠康比呂っつーんだべ。よろしくな」


次にメガネをかけたおさげの少女。(少女、という年齢でもないだろうが)


「腐川さん」

「…腐川冬子よ…」

「腐川さんは多重人格なんだ。だから気を付けてね」


そんな事も暴露するのか、と逆に感心してしまう。彼らを信頼しているから、というのもあるのだろう。最後は褐色の肌をした少女を指した。キラキラとした笑顔を浮かべている。


「朝日奈さん」

「朝日奈葵だよ!!よろしくねっ」


一通り挨拶が終わると、パラパラと拍手が起こった。それに照れ臭そうに3人が笑う。それが終わると、苗木くんが説明をはじめた。


「今日から本格的にプログラムを修正する予定だよ。だから3人にもジャバウォック島に来てもらったんだ。
このプログラムの修正が終わるのは、多分早くても1ヶ月はかかると思う。修正が終わり次第、キミたちにはプログラムを受けてもらう」


一息置いて、また説明をはじめる。今の苗木くんは、いつものヘロッとしている苗木くんとは違う。真剣な眼差しに声。いつもの苗木くんの真逆と言っていいかもしれない。


「プログラムにかける、と言っても、記憶がなくなるわけじゃないから、安心して。念には念を、ってだけだから」

「ねぇ、苗木クン」

「なにかな、狛枝クン」


質問、と点滴の管が伸びている右手を挙げる。狛枝くんはちらりとこちらを一瞥してから、苗木くんに向き直った。なぜこちらを見た。


「…ーープログラムにかける意味が見出せないんだけど」


狛枝くんの一言が重く感じた。記憶を持ったままなら、希望のカケラを集めることに執着しない。いつもの生活と同じだから、と言いたいのだろう。
確かにそうだ。彼の意見も一理ある、と思う。


「…そう、かもね」


さすがの苗木くんも言い返せないでいた。変な空気が流れる中で「でも、」と空気を吸う音が妙に耳に届いた。


「このプログラムにかけないと、なまえさんが未来機関に手をかけられるかもしれないんだ…」


言ってしまった、と心の中で溜息を吐く。案の定、狛枝くんは「…えっ?」とポカーンとしている。斜め上の答え、と言ってもいいだろう。


「言ってもいい?なまえさん」


申し訳なさそうに尋ねるが、そこまで言ってしまった。私はその考えを「焦らしてあげたらダメだよ、苗木くん」と冗談交じりに言うと、分かってくれたのか苗木くんは苦笑を浮かべた。


「なまえさんはね、」


苗木くんの説明に耳を傾ける。未来機関、日向くん、私以外はじっと動かずに、その話に聞き入っていた。そこまで聞き入らなくても、と思うほどだ。自分なんかがこんなにも心配されているのか、と思うと目頭が熱くなった。


「…だから、プログラムにかける理由はあるんだよ」


そう締め括った最後、皆が「じゃあプログラムにかけられるのも悪くない」と言いはじめた。狛枝くんの声は周りに掻き消されていたが、私の耳には届いた。いつの間にか、緒方ボイスに敏感になっていたらしい。


「別にみょうじさんのためじゃないけど…プログラムの意味は見つかったから、いいんじゃない?」


これは本格的なツンデレのデレである。狛枝くんがツンデレだなんて、私のひどい妄想だろうが、これはこれで需要がありそうなのでいいだろう。
レクリエーションは「じゃあプログラムが修正し終われば、報告するね」という苗木くんの締めで解散された。

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