その後、既視感を感じる説明を終わると同時に、狛枝くんがいなくなったと泣きそうな表情をした蜜柑ちゃんがコテージに入ってきた。「狛枝さんがぁ…っ………狛枝さん…?」と一瞬にして鬼のような形相に変わった蜜柑ちゃんは、「気分転換も必要だよ、罪木さん」と笑う狛枝くんをあの細腕で引っ張っていった。
どこにそんな力があるのか、と思うが、彼女は超高校級の保険委員だ。力も見かけによらずに強いのだろう。


「何事もなくて良かったよ」

「狛枝のヤツ、懲りないよな」

「大丈夫だよ。今の狛枝くんにそんな力ないって」


この場にいない狛枝くんを罵ると、気分がすっと楽になった気がした。軽く他愛もない話を交わすと、思い出したように苗木くんが声を上げた。


「あっ、そうだった。なまえさん、今日は空いてるよね?」


「うん」と答えると、苗木くんの言葉の意味が分かったのか、日向くんもほっとしたように笑った。苗木くんは「じゃあ、」と続きを話そうと口を開く。


「ホテルロビーでソニアさん達が待ってるから、行って来てくれないかな?」


「ボクらは待ってるからさ」と送り出す苗木くんと日向くん。私は意味も分からないまま、ホテルロビーに待っているソニアさん達の元へ向かった。


…ーホテルロビー。
そこには女子たちが全員集合していた。窓は新聞紙などで隠されており、『男子立ち入り禁止!!』と綺麗な字で書かれている。おそらく小泉ちゃんが書いたのだろう。
そしてロビーには…たくさんの水着が並べられていた。霧切さんも加わり、どの水着がいいかな、と話し合っている。私の勘が合えば、これは海水浴かプールフラグだ。
彼女たちはポケーッと棒立ちで立つ私の姿を確認すると、光のような速さで私に駆け寄った。その手には水着がしっかりと握られている。


「なまえちゃん、遅いよっ!!」
「今日は皆で海水浴なんだから」
「一緒に選びましょう!!水着っ」


揉みくちゃになる感覚を覚えながら、私はあぁやっぱりか、と肺の中の空気を絞り出すように溜息を吐いた。


「…ーーみょうじさんはワンピースタイプが似合うと思いますっ!!」

「それは違うでしょ!!やっぱり、シンプルなビキニだと思うな」

「なまえちゃんは貝殻でいいと思うっす!!すごいスタイルがいいっすから!!」

「みょうじおねぇはスクール水着でいいんじゃない?クスクス」


などと当の本人を置いて、そんな会話が繰り広げられる。私はその喧騒を遠目で見ているのだが、彼女たちは関係なく私に似合うという水着を議題に、討論を交わしていた。
「大変ね、みょうじさんも」と同情を含んだ声音で霧切さんが言った。彼女の手にはしっかりと水着が握られている。あなたもか、と言いたくなった。


「…私はなんでもいいんですけどね。そんなに水着に愛着はないですから」

「そうね。
…ところでみょうじさん。私はこのユニオンジャックのビキニが、あなたには似合うと思うのだけれど」


「そうですね」と空返事を返すと、霧切さんは「聞いてないわね」と呆れたように首を横に振った。水着のセレクトなんて、心底どうでも良くなってしまった。

最終的に私の水着は、私が決めた。そこまでで30分ほどかかってしまった。白をベースに淵とヒモ部分、ハイビスカスの模様が水色、という爽やかなビキニをセレクトした。誰のセレクトでもない、私だけが示した水着である。
試しに着てみると、サイズはぴったり。狙っているのか、と思うほどだ。
「可愛い」「似合う」と個人的意見の賞賛をもらったが、このままビーチに行き、苗木くんたちに見せるのも恥ずかしい。そう思った私は、上から短パンパーカーを着る事にした。

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