日向くんたちに材料を持ってきてもらい、必要ないほど大きいキッチンで作り上げた料理は、簡単に豚の生姜焼き、白ご飯、味噌汁だ。


「どうぞ。味は保証しないけど」


プールサイドで待ってくれている苗木くんたちのテーブルへ持っていく。苗木くんと日向くんは嬉しそうに「ありがとう」と言ってくれたが、私的にうまくいったか分からない。豚の生姜焼きなんて、過去に2度ほど作ったことがあるだけだ。それを作って出す、という私もどうかと思うが。


「美味しそう…!!」

「和食なんて久し振りな気がするぞ」

「花村くんに言えば作ってもらえるでしょうに」


「いただきます」と手を合わせて、そろそろと手を伸ばす。おい、危険なものは入ってませんって。まだ暑かったのか、味噌汁を飲んだ苗木くんは可愛らしく「あつっ」と小さく悲鳴を上げた。
味噌汁の具は玉ねぎにしといた。好き嫌いが2人は分からないから、私の好きなのだ。


「…うんっ、美味しいよ!!なまえさんっ」

「あぁ…この生姜焼きも美味いぞ!!」

「おー、ありがとー」


良かった。溜まっていた息を一気に吐き出すと、安心感がどっと押し寄せてきた。美味しそうに食べてくれる2人を眺めていると、花村くんの気持ちが分かった気がした。これは嬉しいものだ。
私は夢中になって食べてくれている2人の元から離れ、もうひとつ作っているものを仕上げる。デザートだ。
日向くんが草餅が好きだったはずなので、草餅を作った。苗木くんは分からないのだが、彼には好き嫌いがなさそうな気がする。気がするだけだが。
草餅を仕上げ終わり、小さなお皿に乗せて持っていくと、彼らはもう食べ終わっていた。早い気がするが…お前ら、まさか捨ててはいまいな、と心の中で啖呵を切る。


「はい、デザート。はじめて作ったんだけどね」


カチャンと音を発しながら、草餅を乗せたお皿が机につく。草餅だと分かった途端、ぱっと表情を明るくした。本当にぱっと変わった。


「草餅…ッ!!」

「日向クン、草餅大好きだもんね」

「なら良かったよ」


日向くんが草餅大好きだったなんテー、的な空気をまとう。知っていたぜと公に出してしまえば、怪しまれることは絶対だ。問題は苗木くんが草餅は大丈夫なのか、という事だが。


「苗木くんは草餅大丈夫なの?」

「ん?大丈夫だよ。むしろ好きかな」


「覚えとこ」と日向くんに貰った手帳に書き込む。シンプルだが可愛らしい色合いで気に入っている。


「あ、じゃあそれに付け足してくれる?」

「はいはーい。で、なんて?」


メモ帳の苗木くんページに『苗木くん…好物、草餅、』と書き込み終わると、苗木くんは嬉しそうに手を顔の前で組んだ。大人の色気というものが醸し出されています。さすが成人した苗木くん。


「ボクが好きなものは、なまえさんが作ってくれたもの全部だよ」


大人の色気を醸し出しながら、そういう大人な発言をするのはやめてくれ。惚れる。
私は構えていたペンと手帳を持っていた両手を、無意識のうちに力を抜いて降ろしていた。


「…それは霧切さんにでも言ってあげてくれ」

「えー…今の本音だよ?」

「リップサービスは結構だよ、苗木くん」


「リップサービスじゃないよ…」と頬を膨らませて不満を表す。ハムスターのようで、たいへん可愛らしい。
隣で草餅を美味しそうに頬張っていた日向くんは、急に真剣な顔つきになった。


「みょうじ、俺を含めて苗木と狛枝には気を付けろよ」

「自分も含めるなんて、日向クン変わってるね」

「俺も何してしまうか、分からないからな」


それは絶望としてか、腹黒としてか。それとも心配か、恋愛か。トリップ補正的には恋愛だろう。しかし、一級フラグ建築士であり、一級フラグ解体士(?)である私のことだ。おそらく大穴で腹黒だろう。
…いや、恋愛フラグでも良いかもしれない。そうなると私にも遂にモテ期がやってきたわけだ。素直に嬉しい。だが、それはない。


「そんなこと言って、いつも一緒にいるのが3人じゃないの」


そう苦笑すると、日向くんははにかみ、苗木くんは「それは違うよ…っ」と真っ赤になりながら言った。
苗木くんはこういう時に限って、素直に可愛らしいから困る。

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