私の腹筋が蘇生してきた頃、十神くんが狛枝くんの様子を見に行き、霧切さんは本部に報告するために席を外した。つまりは一緒にいるのは、問題の苗木くんと日向くんだけである。今度は私の腹筋ではなくて、私自身が死ぬかもしれない。


「そういえば、なまえさんはずいぶん日向クンと仲良くなったんだね」

「え?あぁ、まぁ」

「なんだよ、そのあやふやな答えは」


苗木くんは「良かったよ」と微笑んでいるが、その微笑みには裏があると直感的に思った。田中くんっぽく言えば、暗黒微笑だ。田中くんっぽいのかは分からないが。


「ここでは希望のカケラとかはないけど、仲良くして欲しいことに変わりないからね」

「…そうだな。
…希望のカケラがないと、本当に仲良くなったのか分からなくて、時々不安になる」


「日向クンだから大丈夫だよ」と微笑む苗木くんの言葉は、自分でもないのに嬉しくなった。苗木くんの言う「大丈夫」は何か力を持っているのだろうか、と思ってしまう。


「でもひとつは踏み込んだら、ボクが許したくないな」


そしてにっこり。暗黒微笑。ひとつ、なんて含んだ言い方をするな。私の探究心がうずく。


「そうだ。もうそろそろコテージが完成してると思うから、案内するよ」

「そうだね。案内よろしくお願いします」

「案内させていただきます」


クスクスと笑い合う。日向くんは「俺も行くからな」となぜか釘を刺すように言ってきたが、私が「宣言しなくていいよ」と笑うと、日向くんは真っ赤になって黙ってしまった。恥ずかしかったんだな、青年。なんとなく、私自身が私の方が年下だという事を忘れてきてしまっている気がする。

…そういえば、私と狛枝くんのコテージは皆のコテージ近くにあるはずだが、皆からコテージを造っている、という事を聞いたことがない。誰がどのように造っているのか。とても気になったが、聞いてはいけない気がした。
だが、私の考えていた事が苗木くんには分かったらしい。


「島内で造る事は出来ないから、コテージの全体は島外で造って、ヘリで持ってくるんだよ。島に持ってきたコテージは水回りだけ整わせて、完成するんだ。だから皆は造っている所は知らないよ」

「…口に出てた?」


なるほど。納得した私は、苗木くんに聞いてみた。すると苗木くんは笑って、


「エスパーだからね」


と言った。「え?」と日向くんが聞き返すと、苗木くんは私には寂しそうに見える笑みを浮かべた。


「冗談。ただの勘だって」


彼は舞園さんの死を引きずって行く、という言葉を有言実行しているようだ。また一つ、苗木くんクラスタへの階段を登りました。

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