レストランに遅めの朝ごはんを食べに行くと、十神くんがちょうど戻ってきた。狛枝くんが饒舌に喋り続けたのだろう。彼の顔がげっそりとして見えた。


「さすが花村クンの料理は美味しいね」


にこにこと微笑む苗木くん。可愛い。ちなみに席順は私の右隣に日向くん、左隣に苗木くん。前に霧切さんと十神くん、という席順だ。決まってるかのように座るのが早かった。


「さすが超高校級のシェフだよ」


新しい料理を持ってきてくれた花村くんに「ありがとう」と言いながら、そう褒める。花村くんは「んふっ、そう言ってもらえて嬉しいよ」と微笑んだ。苗木くんは皆の扱い方が分かっていると思う。
苗木くんの食べているのはパンとヨーグルト、スープとオムレツという洋食だが、いい匂いが香っていた。先ほど持ってきてくれたのは私のだ。トマトパスタにパンが2つという苗木くんよりボリュームが少し多めだ。昼食の代わり、というのもある。
いい匂いが漂っているからか、苗木くんが私に近付いてきて一言。


「一口もらっていいかな?」


コテン、と首を傾げる。これは天然なのか、それともデレなのか、策略か。私を萌え殺す気か、この子は。
心の中で悶えていると、苗木くんが顔を覗き込んできた。それも可愛い。萌え殺す気だ。
…殺されたのはみょうじなまえ。死因は萌え死。苗木くんがクロに決まりました。


「ど、どうぞ…」


フォークに巻き付けて苗木くんの目の前に出すと、苗木くんは「ありがとう」と花を飛ばしながらぱくん、とフォークごと口に含んだ。「おいしいね」と微笑む姿は完璧にスイーツを食べた女子だと思った。


「〜ッ、」

「どうしたの、なまえさん」

「…確信犯か、確信犯なんだな、苗木くんッ!!」

「何のことっ!!?」


ガクガクと揺すると、苗木くんもさすがに声を上げた。いや、これも計算の内なんだろう、苗木くんッ!!
ふとそこで肩が掴まれた。振り返ってみると、頬を赤らめた日向くんの姿。


「…その…俺にも、一口、もらえるか…?」


視線を逸らしながらそう言う。

_____!!


「ど、どうぞ…」


パスタを日向くんの口へ運んでやると、日向くんは恥ずかしそうにだがぱくりと食べた。…ふと思った。この食べさせ方は、あれだ。そう。


『ウフフ♪日向くん、あ〜んvV』

『あ〜んvV美味しいね、みょうじvV』

(※映像はイメージでお送りします)


…じゃないか?え?だから日向くんは恥じらったのか?


「なんで嫌だ、って言わなかったんだ、日向くんッッ!!」

「なんで俺が嫌だなんて言わなきゃいけないんだよッッ!!?」


「恥ずかしいなら止めとけば良かったじゃないか」と日向くんを揺さぶると、日向くんは吹っ切れたように、


「嫌なら頼んでないだろッ!!?」


と言い切った。それは一体どういう意味か?そんなの少し考えれば分かる。
彼は私に『あ〜んvV』とキャッキャウフフしたかった、という意味だ。いや、少し大袈裟かもしれない。


「〜ッ、日向くんをそんな子に育てた覚えはありませんっ!!」


そしてそんな意味不明な言葉を吐いてしまった。日向くんは「俺も育てられた覚えはないぞ!!」と突っ込んで下さった。いやはや好青年である。


「…なんでそんな格好良いことを言うのかなぁ…っ」


そう頭を抱えると、私の言葉を理解した日向くんの顔が真っ赤に染まった。


「なッ、なに言ってるんだよッ!?」

「そのままの意味だよッ」


青春である。なんだ、この気持ち悪いほどにテンプレな青春を送っているのは。私だ。
こんな会話をしていれば、その場にいる人たちは逃げ出したくなるものである。現に前に座っている十神くんと霧切さんは、呆れたように海を眺めていた。


「勝手にいい雰囲気にならないでよ、2人ともッ!!」


そしてややこしい事に苗木くんも、この気持ち悪いほどにテンプレな青春に割って入ってくるのだった。

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