狛枝くんが入院してから、私は一日の1/4を狛枝くんに費やしていた。時々日向くんも一緒に来てくれたが、狛枝くんは「日向くんを連れてくるなんて、キミは何様のつもり?」と不機嫌だった。
私がひとりで行っても、狛枝くんは不機嫌のままだった。「今までなにしてたのさ」と怒られてしまう。アンタが別に来なくていい、って言ったんだろうという言葉は飲み込んだ。
苗木くんのコテージには私だけとなり、苗木くんは分かっていたのだろうか、とさえ考えてしまう。1日だけだったが、狛枝くんがいないとベットがとても広く感じた。

そして一週間後、苗木くんの帰還とコテージの完成の日だ。
止めたにも関わらず、狛枝くんは病院から点滴をつけたまま、管をつけたままで船着場にやって来てしまった。


「なんで狛枝が来てるんだよ…」


日向くんが狛枝くんに聞こえないように耳打ちした。「私も止めたんだけど」と答えると、日向くんは呆れたように「はぁ…?」と溜息交じりに呟いた。
そう考えると、こちらにトリップしてきてから日向くんが一緒にいることがほとんどだ。もしかしたら、苗木くんに監視するように頼まれているのかもしれない。日向くんの事だから、それはないかもしれないが。本当に私を心配して一緒にいてくれているのであれば、感謝感謝だ。若干恥ずかしい気もあるが。


「…来てたのね、みょうじさん、日向くん」

「…おい、狛枝…なんでお前がここにいるんだ。絶対安静だと言っただろう!!」

「気晴らしも必要だよぉ、十神クン」


ほのぼのと答える狛枝くん。なぜここまで上機嫌なのか、と問われれば私は苗木くんという希望が帰ってくるから、と即答するだろう。だが、苗木くんに怒られるであろう未来はなんとなく見えた。


「あっ、あれ、苗木の乗ってる船じゃないか?」


日向くんが声を上げ、その視線の先を辿る。確かにそうだった。
船が船着場に着くと、すぐに苗木くんは走って降りてきた。辺りに花が飛ぶような気さえした。


「久しぶりだね、元気にしてた?

…で、狛枝クン…?」


狛枝くんの姿を確認し、声に出した苗木くんのトーンがあからさまに変わった。例えるなら、激おこだ。激オコスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだ。


「え、あ、これはね、苗木クン…その…」

「理由がどうであれ、皆に心配かけたらダメじゃないか!!しかもボクがいない間にッ!!
なまえさんが応急処置してくれたんだってね?それにありがとうも言わなかったんだって?…ダメだよ!!」

「いや、違…っ」

「違くないっ!!

…ーー罰として3日間、なまえさんと会うの禁止ッ」


「なにその罰ゲーム、罰でもなんでもないじゃんっ!!」と突っ込んだ私は間違ってないだろう。私を不運として見ている狛枝くんとしては逆にご褒美だ。だがその本人である狛枝くんは、


「なんでポカンとしてるのよ」


なぜかショックを受けたようにポカンとしていた。なんでショックを受ける必要がある。幸運の布石が無くなるのが嫌なのか。それとも単純に私に好意を寄せてくれていたのか。いや、それはない。


「とりあえず狛枝クンはなまえさんと会うの禁止ね?」

「…苗木クンが、言うなら」

「うん、じゃあ病院に戻って。十神クン、ついて行ってあげてくれないかな」


そう言うと、十神くんは「なんで俺なんだ…」と不平に不満を零しながらも狛枝くんを引っ張っていった。なんだかんだで十神くんは身内に弱いと思う。
この場に残ったのは苗木くん、日向くん、霧切さん、私だけとなった。苗木くんはなぜかやり切った顔をしている。


「えっと…ただいま。それと、今日の夜にはコテージが完成してると思うよ。また案内するね」


そう言いながらふんわりと笑う苗木くんを見て、また癒されるのだった。

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