あの後、私は夜を待合室で過ごした。「みょうじひとりなんて危ないだろ」と言って、日向くんは一緒に残ってくれた。
待合室に光が射し込む。その光で起きた私が見たのは、ソファーに寝ている日向くんの姿と窓から覗く太陽に照らされた海。美しい、と思った。
起き上がり窓の方に寄りかかり、ぼおっとキラキラと輝く波を眺める。
しばらく眺めていると、日向くんが起きたような気配がした。


「…おはよ、日向くん」

「あ、あぁ…おはよう」


日向くんの髪をかきあげる姿は色っぽかった。さすがイケメン。このシリーズにはイケメンが多いから困る。心臓が持たなそうだ。
日向くんに霧切さんが持ってきてくれた服を渡すと、恥じらいながら「あ、ありがとう」と言ったので、こちらを向くなという意味だろう。
その言葉通りに日向くんの方とは逆にある窓を眺める。布が擦れる音が時々響く他は、波の音がするだけだった。
「もういいぞ」との事だったが、私は海を眺めるのに夢中で日向くんの方は向かなかった。


「みょうじ、」

「はい?」

「お前は、その…着替えなくていいのか…?」


「あっ」と声を小さく上げる。私の今の状況は着ていたYシャツが第3ボタンまで外れている、という格好だった。Yシャツははだけ、下着がチラリと覗いてしまう、という格好ではさすがの日向くんでも恥ずかしいのだろう。
私は「じゃあ日向くんは向こう向いてね」と言って、渡されたYシャツに着替えることにした。着替え終われば、すぐにでも狛枝くんを蔑みに行ってやろう。
着替え終わり、向こうを向いているであろう日向くんに「もういいよ」と伝える。


「じゃあ狛枝くんに文句言いにいこうか」


そう笑ってやると、日向くんは苦笑しながらも「そうだな」と言ってくれた。

狛枝くんの病室は全体的に少し遠く隔離されている感じさえした。病室に入ると、やはり狛枝くんは起きていなかった。さすがに麻酔をかけられて今朝起きているなんて、それはなかったか。


「起きてないな、狛枝」

「まぁ、そうだろうねぇ」


点滴の打たれている右腕に触れる。左腕は確かになかった。包帯を巻かれているそこからは管が伸びて、血液と浸出液と思われる液体が通っていた。肩が少し腫れているように見える。


「痛いだろうなぁ…」



「…ーー痛いに、決まってるよ…」


しみじみと言葉を噛み締めていると、閉じていたはずの狛枝くんの灰色の瞳がこちらを不機嫌そうに睨みつけていた。
「起きてた?」と笑うと、狛枝くんは呆れたように「キミの声で起きたよ」と突き放した。


「ゴメンゴメン。で、気分はどう?最高?」

「最悪だよ。起きたらみょうじさん、だなんて…あ、日向くんは良いんだけどね?」

「おいおい…恩人にそれはないだろ、狛枝」


日向くんが諭すように言う。狛枝くんはとぼけて「は?恩人って何?」と言っていたが、表情は不機嫌極まりなかった。そんなに嫌か。


「みょうじが応急処置してくれたから、お前はケロッとしてられるんだ」

「出血多量で手術が難航するかもしれなかったんだから。すぐに腕を切り落とせたのも、私のおかげだと思え」

「命令形で言われると逆に思いたくないな」


なんで私といるとそこまでツンツンするんだ、お前は。あの饒舌狛枝くんはどこに行った。そう叫びたいほど、私といる狛枝くんは無表情で饒舌でない。
こちらの狛枝くんに慣れてしまったからか、饒舌な狛枝くんは気持ち悪く感じてしまう。


「そうだ、狛枝くんの才能に願っていい?」

「は?キミなんかの幸運のためにボクを不運にさせる気?」

「…そうじゃない。狛枝くんがはやく退院出来るように、に決まってるでしょう」


なんで私の幸運を祈らなきゃいかんのだ。そう思って狛枝くんの返事を待つ。狛枝くんの顔を覗き込むと、狛枝くんは意外にも照れていた。


「…ッ、みょうじさんのクセに、生意気だよ」


霧切さんの名台詞を狛枝くんのCV:緒方で再現していただけましたぞ、むふふ。なんてね。いや、少しは本音が入ってたけど。
頬をほんのりと赤らめる姿は、普段のツンツンしている狛枝くんとは真逆で可愛らしかった。なんだ、そんな表情できるんだ。とさえ思ってしまう。
心の中でだったが、自然と口元が緩んでいたのだろう。「ふふっ」という笑い声が自然と漏れてしまった。


「キモいよ、みょうじさん、そうとう」


そして狛枝くんに言われてしまうわけである。

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