*グロい表現があります。苦手な方は飛ばしてください。


「これで、もうこの最悪な腕は使い物にならないね…?」


静かながら痛みを含んだ声。確かにこれほど深く刺さってしまえば、腕は使い物にならないだろう。彼は、これを図っていたのだ。
私は弾けるように狛枝くんに駆け寄った。



「…ッ、ーー日向くん、包帯持ってきて!!狛枝くん、早く腕を上げて!!
霧切さんは蜜柑ちゃん、いえ罪木さんを呼んできてください!!十神くんは病院をッ」



私の指示に日向くんはビックリしていたが、「分かった」と頷き取りに行ってくれた。霧切さんも我に帰ったように、すでに帰ったであろう蜜柑ちゃんを呼びに行った。十神くんは冷静を装いながら病院を整えに行った。
私は駆け寄った狛枝くんを座らせ、腕を心臓より上に上げさせた。


「ちょっ、みょうじさん、痛ッ!?」

「なにぶっ刺した本人が言ってんのよッ!!そのまま動かないで…


…ーーッ動くな、狛枝凪斗ッ!!」


その場にあったハンカチや服を千切り、包丁が刺さっていた部分を押さえ、圧迫止血を試みる。
途中で動いた狛枝くんに一喝してやると、狛枝くんは時々呻き声を発しながらも動かなくなった。


「…ッこ、狛枝さんが腕を、って聞いたんですけどぉ…ッ!!」


血が止まりかけていた時、蜜柑ちゃんが慌ててやって来てくれた。彼女のキリッとした表情は医療に携わる人間に思えた。私が止血していた所を見つけると、蜜柑ちゃんは「ありがとうございますっ…私が変わります」と変わった。キビキビとした動きは頼もしく見えた。
そして1、2分後に日向くんが走って戻ってきた。持ってきた包帯を蜜柑ちゃんに渡すと、蜜柑ちゃんは奪い取るように包帯を受け取り、手際良く巻いていった。
その数分後に十神くんが「こっちだッ」と案内してくれた。十神くんを追いかけ、私たちはフラつく狛枝くんを支えるのに精一杯だった。

病院に辿り着くと、蜜柑ちゃんは狛枝くんを引っ張るように治療室へと入って行った。補助として十神くんが一緒に入ったが、私と日向くん、霧切さんは待合室にいるようにと指示された。


「あり得ない…」


ふと呟いた言葉に、隣に座った日向くんの肩がビクリと揺れた。霧切さんは黙っているが、そうとう焦っているのが分かる。自分がいる時にこんな事が起こってしまい、苗木くんに会わせる顔がない、と思っているのだろうか。


「…ありがとう、みょうじさん」

「え…?」


ポン、と頭に手が置かれた。見上げると霧切さんが辛そうだが微笑んでいた。


「あなたが応急処置をしてくれたから…目が覚めたのよ、私は。ありがとう」

「俺もだ。みょうじが指示してくれたおかげで、自分がやらないといけない事が分かった。狛枝もみょうじに救われたと思うぞ」


隣の日向くんも微笑んでいた。自分がした事が狛枝くんを救えたのか。そう思うと不思議と気が楽になった。


「そうだねー…そうだといいけど、相手は狛枝くんだからね」


クスリと笑うと、日向くんたちは釣られたように笑った。「それに賛成だ」と日向くんはお決まりの台詞を言ってくれたのに感激だ。


数時間後。夜も深まった時間に待合室の扉は開いた。扉から入ってきたのは疲れ切った蜜柑ちゃんと十神くんだ。


「え、えっとぉ…なまえさんが応急処置をしてくれたおかげで…出血多量、ってことはないので、大事には至りませんでしたぁっ!!」


嬉しそうに、だが疲れ切った顔でそう告げると、蜜柑ちゃんはプツンと糸が切れたかのように座り込んだ。慌てて蜜柑ちゃんに駆け寄ると、蜜柑ちゃんは「ふえぇっ…本当にありがとうございますぅ…なまえさんには助けられてばっかりでぇ…っ」と泣き崩れてしまった。


「…本人の意向で左腕は切り落とした。"絶望"だけを切り落とすのではなく、"絶望"に感染していた自分の左腕を切り落として欲しい、と言ってな」

「狛枝の左腕は肩から…?」

「あぁ、そうだ。今は麻酔でぐっすり眠っている」


"絶望"に感染した左腕全てを切り落とす。なんて"絶望"を嫌う狛枝くんらしい意思だろうか。
だが左腕全てをなくすなんて、とんでもない痛みだっただろう。麻酔で痛みを感じないとしても、起きた後の痛みは尋常じゃないはずだ。正気の沙汰じゃない。


「面会は勝手にしろ。もとは勝手に狛枝が起こしたんだからな。アイツの幸運は伊達じゃないはずだ」


十神くんがそう言うと、場が少し和んだ。私はまだ泣いている蜜柑ちゃんの頭を撫で、1番に狛枝くんを罵りに行こうと決めた。

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