*グロい表現があります。苦手な方は飛ばしてください。

ホテルのロビーに残ったのは私、霧切さん、十神くん、日向くんだった。狛枝くんは帰ってくれた、と思う。


「あの、霧切さん、」

「あなたの事、話したんでしょう?」


図星だ。私が苦笑すると、霧切さんは手をポン、と私の頭に置いて「大丈夫。心配ないわ」と微笑んだ。


「はい。それと、"絶望の残党の処理"については、どうするんですか?」

「アルターエゴがプログラムを修正し終われば、もう一度、プログラムにかけるつもりよ」

「な、記憶はッ!!?」


霧切さんの答えに日向くんが声を荒げた。やっと仲間となったのに、その記憶が無くなるなんて、と不安なのだろう。霧切さんは日向くんに向かって、安心させるように微笑んだ。


「記憶はそのままよ。プログラムにかける、と言っても細部を修正するくらいだから。安心して」


その言葉と笑顔に安心したようで、日向くんは「良かった…」と力を抜いた。


「細部、っていうのは、どれくらいですか?」

「まだ絶望に後ろ髪を引かれている記憶、とかかしら。それはまだ決まってないの。苗木くんが戻ってきたら話し合うつもりよ」

「そうですか…」

「その時はお前も参加してもらう」


さも当たり前と言うように、十神くんはこちらに近付きながら言い放った。


「本部に説明するのが楽なようにな。お前が絶望でなくても、プログラムにかければ警戒は薄れるだろう」


その理由には納得した。もう江ノ島ウイルスは心配ないらしく、私がプログラムに入っても支障はないという。


「…狛枝くんが問題ね」

「え?」
「狛枝が?」


霧切さんの言葉に反応した私と日向くんの声が重なる。それに顔を見合わせながら、霧切さんの言葉を待った。


「狛枝くんは1番"希望"に執着している。"絶望"の記憶を取り除くことはできるけれど、"絶望"の痕は取り除けないのよ」


意味が分からず、首を傾げていると飽きれたように十神くんが説明してくれた。


「つまり、狛枝の記憶は取り除けても、アイツの左腕は取り除けない、ということだ。
起きたアイツにどう説明する?『お前の左腕は"絶望"の左腕だ』と説明できるか?」


「それなら、あの左腕を切り落として事故で左腕を失った、と説明する方がいいだろう」と付け足しながら、十神くんは足を組み替えた。
納得した。確かに惨いがそれが狛枝くんにとっても良い事なのかもしれない。だが、狛枝くんに説明するのが大変そうだ。
その事を十神くんたちに伝えると、十神くんは「ヤツなら喜んで差し出すんじゃないか?」と嗤い、霧切さんは「プログラムにかけている間に、という方法もあるのだけど…」と考え込んだ。


「狛枝に説明するのが1番いいんじゃないか?」


日向くんが提案する。その提案にこの場にいないはずの声が凛と響いた。


「…ーーその必要はもうないよ」


…狛枝くんがドアの前に立っていた。話を聞いていたのだろうが、彼の表情はとても穏やかだった。不気味なほどに微笑んでいる。何を考えているのか分からない。
…嫌な予感がする。


「狛枝…!?」

「うん、ボクだよ。あ、必要はない、って言うのはボクなりに考えた結果なんだ」

「なにをするつもり?狛枝くん」

「霧切さんがこんなボクのことを心配してくれるなんて、幸運だなぁ…あ、でもボクなんかの心配をするなんて、ゴメンね。気分最悪だよね」


私といる時の無表情無口な狛枝くんとは全然違う、希望厨で饒舌な狛枝くんがそこにいた。その狛枝くんに悪寒が背を駆け抜けるのを感じた。


「大丈夫だよ。だってボク自身が、」


彼の右手に握られていたモノを見た途端、嫌な予感は的中した。彼の手には包丁。
分かっているはずなのに、私の足は脳からの信号を受信していないのか、動いてくれなかった。


「ッまさか」

「そのまさか、だよ。みょうじさんは凡人なりに勘がいいのかな?」


クスクスと笑いながら、狛枝くんは包丁を…ーー振り上げた。


「狛枝くんッッ!!!?」
「狛枝ッッ、やめろッッ!!!」
「おい、やめろッッ!!!」
「やめなさいッ、狛枝くんッ!!」


私たちの制止の声も聞かず、狛枝くんは振り上げた右腕を左腕に振り下ろした。瞬間、狛枝くんの顔は苦痛に歪み「うぐぅ…ッ」とくぐもった声が漏れる。
いくら他人の腕であっても『取り込んだ』と自称していたほどだ。痛みがないわけがない。


「あはっ…」


狛枝くんの口から乾いた笑いが零れる。左腕に巻かれた包帯は包帯の意味を成さず、真っ赤に染まり血が滴っている。床にはポタリポタリと落ちていく血で染まっていく。左腕はピクリとも動かない。包丁はぐっさりと深く刺さっていた。

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