十神くんと霧切さんと別れて、自由行動を過ごす事になった。
ちなみに日向くんと狛枝くんは飽きもせずについて来てくれている。不思議なことだ。
「私についてきても面白い事なんてないですよ」
そう言うと、日向くんは照れ臭そうに笑った。狛枝くんは無表情だ。ムカつく。
「みょうじといると、その…飽きないんだよ」
「ボクはみょうじさんといると、不運が襲うから一緒にいるだけだよ。みょうじさんといるだけで不運だからね」
「…左様ですか」
嫌味が効きますこと。日向くんは可愛らしく爽やかに青年らしく言ってくれたのに、狛枝くんは嫌味で無表情に見下して言ってきた。ここでもう天と地のごとく差がついているのだ。
「日向くんは可愛いのに…狛枝くんは可愛くないねぇ」
「…は?なにか言った?」
「いいえ、なにも言っておりませんが?」
私と狛枝くんの間にばちばちと火花が散る。その光景に溜息を吐いた日向くんは、私と狛枝くんの間に割り込むようにして入った。
「お前ら、なんでそんなに仲悪いんだよ…」
「だって狛枝くんが」
「だってみょうじさんが」
ちょうど私たちの声が重なった。それがまた癇に障る。
「なにハモってんよ!?」
「なんでハモるのかな!?」
「またッ!!」とまた声が重なる。ギリギリと睨み合うと日向くんが「お前らなぁ…」と頭を抱えた。自分としてもなぜここまでイラつくのか、理解しかねる。
「そこまでだとその嫌いは
"同族嫌悪"なんじゃないか?」
レストランで昼食をとりながらいがみ合っていると、豚神くんがそう言った。
十神くんと霧切さんが見回りに行ったこの時間を狙ったのだろう。豚神くんはまだ十神くんの真似をしているから、罪悪感に似た何かを感じているのかもしれない。
「同族?コイツなんかと?」
「みょうじさんと同族だなんて、いくらキミでも聞き捨てならないなぁ」
また声が重なった。その光景に日向くんが「あー…」と納得したようだった。納得するな。
「私は最初は狛枝くん好きだったんですよッ!!なのに狛枝くんの一声がウザかったから、嫌ってやったんですッ」
「な、なにそれ…頭おかしいんじゃないの!?」
「おかしいのは狛枝くんの方だ、バァーカッ!!」
「はぁ!?バカって言った方がバカなんだよっ、キミの方がバカじゃないかッ!!」
「狛枝くんもバカって言ったじゃないッ!!」
なんと低レベルな争い。自分でそう分かっていながら、止めることができない。狛枝くんが絡むと、負けず嫌いが発動してしまう。黙ったら負けだ。
「お前ら何歳だよ…」
その日向くんの一言で私たちの口論が止まった。相手より精神年齢が低い、と思われてしまってはいけない。おそらく狛枝くんもそう考えていたのだろう。ギリ…と悔しそうにこちらを睨んだ。
「…とりあえず…終戦と仲直り」
すっと右手を狛枝くんの前に出すと、狛枝くんは目を泳がせた。私の行動の意味が分からない、といった顔だった。そりゃあバカバカと言い合っていた嫌いな人物が、突然仲直りだなんて言ったら、誰でも理解しかねるだろう。
「なんで?」
「くだらない、と思ったから」
ハッキリと言い放ってやると、狛枝くんは引きつった笑みを浮かべた。そこまで嫌なのか、と思うと少し悲しくなる。
「…ボクは、」
すぅ、と息を吸う音が静寂の中に響いた。
次に侮辱の言葉が待っているのであれば、私は言い返してやる、と心に決める。
「キミの手はとらないよ。絶対に」
「…そっ、かぁ…」
私の口から出たのは、自分でも不思議なほどの残念そうな声。それが狛枝くんと日向くんも意外と思ったようで、目を見開いていた。自分でも意外だ。
心の奥では狛枝くんと仲良くしたかったんだろうな、と思ってしまう。今では不本意に感じるそれを、私は求めていたのだろう。
「じゃあ喧嘩は続行だからね」
挑発するように言ったその言葉も、私の耳には虚勢を張っているようにしか聞こえなかった。
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