苗木くんを狛枝くんと日向くんと見送り、各自のコテージに向かった。コテージ前で日向くんからすごく念を押された。
「いいか、みょうじ。このコテージは防音にはなってないからな。なにか狛枝にされたら叫べよ?いいな」
そう言われれば頷いてしまうもので、私が頷くとその場で待っていた狛枝くんが嘲笑うように言ってきた。
「ボクがみょうじさんみたいな凡人を襲うとでも?さっきは皆がいたから言わなかったけど、ボクはキミを認めてないからね」
「それで結構ですよ」
そっけなく返してやると、なぜか睨まれた。アンタはそれが望みじゃないのか、と叫びたくなる。
日向くんは夜時間と決められている10時ギリギリまでいたが、10時のアナウンスが「これから夜時間です。おやすみなさい。良い夢を」と言うと、慌てて自分のコテージに戻っていった。
夜時間はこの現実世界でも決められている。全員が自主的に夜時間での立ち歩きを控えているらしい。
「あれ、狛枝くんはベットで寝ないんですか?」
ふと狛枝くんの方を見ると、寝るためにかソファーにシーツをひいていた。狛枝くんの事だから何食わぬ顔でベットに入ると思ったのだが。
「…キミがいくら凡人で気に食わないからと言って、女性に床やソファーで寝させるほどに性格が落ちぶれてはいないよ。…キミがどうしてもって言うなら、ベットで寝てあげてもいいけど?」
その意外な回答にびっくりして「へっ!?」と間抜けな声を上げてしまった。
私の間抜けな声に狛枝くんは「なにその声」と上品にクスリと笑った。普通にしていれば格好良いのにな、と狛枝くんを見ながらつくづつ思う。
「…でも、それじゃあ不公平なんで、狛枝くんもベットに寝たらどうですか?」
「…は?」
私の提案に狛枝くんが間抜け面を見て、噴き出すのを堪える。先ほどまで綺麗に笑っていた狛枝くんはどこに行ったんだろう、と思ってしまうほどの間抜け面だ。
「逆に問いますが…狛枝くんは嫌いな女性とも言えぬ女子を襲うんですか?」
「ないね」
「じゃあいいじゃないですか。それほど狛枝くんを信用している、と捉えてくれても構いませんよ?」
「いやだよ」
私の提案や質問に即答で否定してくれた。ここまであっさりして答えられると、複雑な気持ちになってしまう。
「で、狛枝くんはどうしますか」
「…じゃあベットで寝させてもらうよ。こっち見ないで背中合わせで寝てよ」
「それは寝相で変わりますけどね」
狛枝くんの提案にマジレス。狛枝くんはソファーにかけていたシーツをとり、ベットの方に潜り込んだ。私も潜り込むと、背中の方でもごもごと動くのが分かった。
狛枝くんの事なので嫌だから離れた、とかだと思うが案外、緊張していたりするのだろうか。そう思うと狛枝くんが可愛く思えるが、狛枝くんの性格的にそれはない。絶対にない。
「…可愛くないのが狛枝くん。それでも好きになるのが狛枝くん」
寝息が聞こえてくると同時に、そう呟いてみる。狛枝くんには聞こえてないんだから、と安心して。
…そのフラグを狛枝くんは折ることなく、しかと聞いていたわけだが。
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