3人と別れると、日向くんは疲れたように「あと2人だな」とため息を吐いた。
その2人は、偽物の十神くんに澪田ちゃんだと思う。


「あ、良かったなみょうじ。あそこに十神がいる」


日向くんが指差した方には、十神くんとは似ているようで微妙な姿。
容姿はそのままだが、さすがに南国は暑いようで涼しげなTシャツを着ていた。まだ十神くんスタイルは守っているのか。


「あの、」

「…なんだ貴様は」


わぁ、見下し十神くんご健在。
その威圧感に怯むな、と自分に言い聞かせた結果、ビクビクとしながら自己紹介することになった。


「ワケあってここで生活することになりました。みょうじなまえです」

「そうか。俺は十神白夜だ、と言いたいところだが、本物の十神白夜は未来機関にいるからな。なんとでも呼んでくれ」

「…じゃあ豚神くんで」


失礼だったかな、と思いながらその名前を口にすると、豚神くんは諦めているのか「それでいい」と笑った。
豚神くん曰く、自分でも分からなくなるほど騙し続けていたので本名も忘れてしまったらしい。
そんな話をしていると、その若干シリアスな場に場違いな明るい声が響いた。


「白夜ちゃーんっ!!…あれれ?どちら様っすか?」


元気っ子で〜っすか口調な少女。可愛い。
悶えながらも微笑みは崩さず、豚神くんに抱きついている少女に応える。


「みょうじなまえです。ワケあってここで生活することになりました。よろしくお願いします」

「そうなんすか!!あっ、澪田唯吹っす!!澪田唯吹の澪に、澪田唯吹の田に、澪田唯吹の唯に、澪田唯吹の吹で澪田唯吹っす!!」


よく噛まないな、と感心しながら、抱きつかれて(またか…)みたいな顔をしている豚神くんと澪田ちゃんのセットを眺める。
この2人のセットは癒される、と言える。澪田ちゃんに懐かれている豚神くんに嫉妬する。


「2人の才能はどのようなのですか?」

「唯吹は超高校級の軽音楽部っす。唯吹のキャラ設定に誓うっす」


なにを。
なんて心の中で突っ込む。豚神くんは一拍置いてから答えてくれた。


「俺は超高校級の詐欺師だ。本物の十神白夜は御曹司だがな」

「詐欺師ですか?じゃあオレオレ詐欺みたいなのしてるんですか?」


少し凹んだように見えた豚神くんを茶化すと、豚神くんは真っ赤になって「していないッ!!」と怒鳴った。


「じゃあ、いいじゃないですか」


私の言葉に豚神くんも澪田ちゃんも固まった。


「人に恨まれる事はしてないんですよね?ならいいんです。恨むなら自分を恨めばいいんです」


へらっと笑う。自分でも言ってることが無茶苦茶だと分かった。


「…そうだな」

「分かってくれて、ありがとうございます」

「え、なんの話っすか!?唯吹だけ仲間外れは嫌っすよーっ!!」


駄々をこねる澪田ちゃんに苦笑していると、抱きつかれていふ豚神くんは澪田ちゃんの頭を撫でたのが見えた。


「感謝する。みょうじ」

「いえいえ。豚神くんは1番辛そうだからね」


まだ分かっていない澪田ちゃんが騒ぎ、その会話は終わった。
日向くんはそんな私たちを見て、笑っているだけだったが、彼にも思うことがあったのだろう。2人がロビーに向かい、姿が見えなくなると私の頭にぽん、と手を置いた。いや、正確には撫でた、が正解だろう。


「なんですか?」

「いや。本当にお前は不思議なヤツだな、と思っただけだよ」


これで挨拶回りは終わりだ。ふぅ、とため息を吐くと、待っていましたとばかりに放送を知らせる音が響いた。


『全員、ホテルのロビーに集まってください』


単純なそれだけのお知らせ。苗木くんの声だ。
日向くんは「いこう」と私の手を引っ張り、そこにあるホテルに向かった。
七海ちゃんと重ねているのかもしれない。そう思った私は、「私はそんな事しなくても、寝たりどっかに行ったりしませんよ」と言って笑った。
だが、日向くんはなにも言わなかった。耳が真っ赤になっているのが見えただけ。

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