2人と別れたあと、ふと私が口にした「お腹減った」の一言でレストランに向かうことになった。
レストランは開放的で、綺麗にしてあった。日向くん曰く当番制で掃除をしているらしい。私もその当番に加わってもらう、と。うわ面倒臭。
キョロキョロを見回すと、後ろから「よぉ!!」と元気な声がかけられた。そして振り返ると、ぷわっとした感覚が顔を包んだ。
「お、すまねぇ。大丈夫か?」
「ぷはっ…!!え、あ、はい」
そこから顔を出すと、目の前には大きな胸の谷間が。
「うえっ!!?」と声を荒げると、豪快に笑う声が聞こえた。彼女の後ろに大きな体躯の男性が笑っていた。
「ガハハハッ!!小さいから分からんかったんだのっ!!」
「おう。てか、お前誰だ?」
「あ、みょうじなまえです。ワケあって一緒に生活することになりました」
自己紹介をして、ペコリと頭をさげる。
この2人は終里赤音ちゃんと弐大猫丸さんだろう。
「オレは終里赤音だ!!よろしくな」
「ワシは弐大猫丸じゃ!!」
元気な2人だ。よろしく、と返すと2人は「あ、飯食いにきたんだった!」と笑った。
それで私たちも思い出すと、日向くんが頷いた。
「おーい、花村。いるかー?」
日向くんが声を上げて花村くんを呼ぶと、「はいはーい」と奥から福潤のイケボが聞こえてきた。
どうやら奥の厨房でなにかを作っていたらしい。食事は全て花村くんに任せているとか。
「あれれ?キミは?」
「ワケあって一緒に生活することになりました。みょうじなまえです」
「そうなんだ、よろしくね、みょうじさん。ぼくは花村輝々、超高校級のシェフと呼んでくれてもいいよ」
んふふ、と面白い笑い声を上げた花村くんは、握手を求めてきたのでそれに応える。
彼は自分が絶望だとしても、料理人という才能に誇りを持っているようだ。
「じゃあ、シェフ」
「んふっ、何かなみょうじさん。欲求不満ならぜひ僕がやってあげ」
「オススメの料理を振る舞ってくれますか?あり合わせでいいので」
下ネタ、ダメ絶対。
花村くんの下ネタを途中で遮ると、気にしていないのか「OK!日向くんもかな?」と笑った。さすが人に好かれるタイプの変態。
日向くんも頼んでいたので、私たちは近くのテーブルに向かった。終里ちゃんたちは2人で、違うテーブルに向かっていた。
「花村くんは才能を誇りに思ってるんですね」
「そうだな。目覚めた中で、1番区切りをつけるのがはやかったんだ。アイツ曰く、皆を笑顔にできるのが食事なら、ぼくは笑顔にするために作るのを全うする。だってさ」
「あら素敵」
「みょうじさんに褒めてもらえるなんて嬉しいな。あり合わせのものだけど、パスタでいいかな?」
そこに来たのは、両手に美味しそうなパスタを持った花村くん。
美味しそうなにおいだ。はやく食べたい。
「いいですよ。ありがとうございます」
「ありがとな、花村」
「いいよいいよ。食べた人の笑顔を見てると、絶望なんて忘れられるからねっ」
目の前に置かれたパスタを口にする。
単純に美味しかった。それしか単語が思い浮かばない。自然と頬が緩む。
厨房に入りかけていた花村くんに向かって、声を張り上げる。
「ありがとうございます、花村くんっ!!」
その声が届いたのか、花村くんは振り返って嬉しそうに笑った。
「んふふっ、さすがぼくだね!!」
それだけ言って厨房に入る姿は、プロのシェフだと思った。
← back →