2人と別れて、また人がいるか探す。日向くん曰く、だいたいの人はホテルに集まっているから、ホテルにいればほとんどの人に会えるらしい。
「日向くんは皆の事を知ってるんだねぇ」
「…なんか、そう言われると照れるな」
「照れとけ」
「ひでぇ」
日向くんと他愛もない会話をしていると、少し身長の低い少年がコテージに向かっていた。
コテージに行ってしまっては、挨拶できないかもしれないので、慌てて少年の方に駆ける。
「あのッ」
「…んだよ、テメェ…見たことねぇな」
あぁん的に睨まれた。新顔なんてあるはずがないので、その分警戒してるんだろう。
右目を眼帯で隠している小さめの彼は、おそらく九頭竜冬彦だ。
「ワケあってここで暮らすことになりました。みょうじなまえです」
極道怖い。という事で、土下座する勢いで挨拶する。すると九頭竜くんは「おう」と頷いてから、
「俺は九頭竜冬彦だ」
と自己紹介してくれた。丸くなったね、ぼっちゃん。
私が微笑ましい、と思って九頭竜くんを眺めていると「なに見てんだよ」と怒られてしまった。ごめんなさい、と慌てて謝ると、鼻で笑われた。極道怖い。
そうビクビクしていると、そこに「ぼっちゃんッ!!」と声が響く。振り向くと、竹刀を背中にかけた少女の姿があった。
「んだよ、ペコ」
「かりんとうが届いたので、持ってきたのですが…そちらは?」
「ワケありでこの島に住むらしい。みょうじだ」
ご丁寧に九頭竜くんが紹介してくれた事に感動しながら、ペコちゃんと挨拶を交わす。
ペコちゃんは何故かペコちゃんだ。辺古山ちゃん、って言いにくい。
「みょうじなまえです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく頼む。私は辺古山ペコだ」
律儀に返してくれる。真面目そうな人だ。常識人だと思う。
「ペコちゃん」
「なんだ」
「ペコちゃん、でいいですよね?」
「?あぁ、構わないぞ」
よっしゃ、とガッツ。
そこで恒例(?)の才能を尋ねることにした。
「2人はどんな才能なんですか?」
2人は一瞬、迷ってから口を開いた。でも言ってくれるのは、着実に未来に進んでいる証拠だろう。
「超高校級の極道なんて言われているが、俺は好きじゃねぇんだ」
「私は超高校級の剣道家と言われている。少しおこがましい気がしてな。あまりこの名前使いたくないんだ」
へぇ、と相槌を打ちながら、やっぱりそうなのかと思った。
この2人も自分の行いについて悔いているんだ。
「…2人は仲良しだね」
「んだって?」
「仲良し、なんて私には大きすぎる。ぼっちゃんをお守りするのは私の役目。私はお守りできるだけで充分だ」
その言葉に九頭竜くんが一瞬、悲しそうな表情をした。九頭竜くんは自分のせいで、ペコちゃんが自分を人形だと思い続けるのが辛いのだろう。
そう考えていると、ペコちゃんはそんな九頭竜くんを一瞥してから微笑んだ。
「でも、今はぼっちゃんのお側にいられるだけで幸せです」
2人はいいパートナーになれるよ、と年下ながら思った。
九頭竜くんは照れ臭そうに「んだよ」と笑った。ペコちゃんはツンデレな九頭竜くんに微笑みかけ、もっと九頭竜くんを赤くさせる結果になったが、本当にいいパートナーだ。
クスリと笑うと「なに笑ってんだ、テメェッ!!」と怒鳴られたしまったが。
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