私の思ったとおり、今回の船旅はいつもより短く感じた。
船の中でUNOをしたり、話し合ったり…少し酔いかけたが、いつもとは考えられないほど充実した船旅だった。人がいるだけで、こんなにも変わるものなんだ。そう思った。


「もうすぐ到着だよ」


見えてきたコンクリートが並ぶ船着場。そこには人が3人ほどいた。1人にアンテナがついているのが見えたので、苗木くんと橘さん、長谷川さんだろう。
苗木くんと思わしき1人は腕を大きく振っている。腕を振ると同時にアンテナも揺れるのだが、それがなんとも言えないほどに可愛い。


「案外綺麗なんだな」

「もっと廃墟のようなものを想像していましたわ」


船着場周辺の建物などを見て、皆はそう言った。絶望が蔓延している世界、つまり彼らが見ていた世界とは全く違ったのだろう。
鉄筋などがその場にあると期待していた左右田くんや、オカルトが大好きなソニアちゃんはあからさまにガッカリしていて、なんとなく可愛らしい。

船が着くと、皆は弾けるようにして自分のキャリーを取りに行った。荷物を取る、という行動が少し怖く思えた時間だったが、皆は荷物をとった途端に我れ先にと船を降りていった。
日向くんは前にも来た事があるから、そこまで興奮していなかったが、その瞳はキラキラと輝いていて、少し子供っぽく見えた。
皆に遅れをとりながら船を降りると、苗木くんが苦笑しながら微笑んでくれた。


「いらっしゃい。これからよろしくね」

「はい」
「おう」
「うん」


苗木くんの歓迎に皆、不安などない様子で頷いた。
それから苗木くんは案内するから、少し待っててと言って何処かへ行ってしまった。皆は興奮気味に話し合っていて、私が入れる隙はないみたいだ。


「なまえさん、」


ふと、凪斗から声がかかる。隣の凪斗を見上げるようにして見ると、凪斗は真剣な表情でこちらを見ていた。いつになく真剣だ。


「なに?」

「約束、今言ってしまうよ。苗木くんにも手伝ってもらってたんだ」


そう言うと同時に、さっきまでいなかった苗木くんが私たちに近づいて来た。手には小さな箱が握られており、中身も確認していないのに恥ずかしさでいっぱいになる。
苗木くんはそれを凪斗に渡し、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべた。まるでサプライズを用意した友人のようだ。
凪斗はそれを受け取ると、私の目の前に膝をついた。
日向くん達を見てみると、あいつらもニヤニヤとしなからこちらを眺めている。あいつら、グルだったのか…!!!


「なまえさん、」


落ち着いた声。改めて凪斗を見ると、顔がほんのり赤くて、人並みに緊張している事が分かった。
私の方が顔は真っ赤だろうが、肌が白い凪斗はその赤さが目立つ。

凪斗はその灰色の瞳に私を映し、ハッキリとこう言った。













「…ーーボクと、結婚してください」













…ああ、なんて幸せだ。

目の前に差し出された指輪。私はそれを受け取り、凪斗に勢いのあまり抱き付いた。

新しい世界へ飛び込むのは凪斗達のはずだったのに、今では私が新しい世界へ飛び込んでしまっているようだ。
創りゆく未来へたくさんの希望を抱き、私は確認するように頷いた。





「…ーーはいっ!!」







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