そしてやって来たその日。
私たちは船着場でキャリーを隣に、まだ来ない船を待っていた。
響子さん達はまだこの島に残るらしい。最後の一人がこの島を出るとき、一緒になってこの島を出る、と言っていた。花村くんも自ら最後まで残るとのこと。「ぼくの料理が必要だろ?ンフフ」という事らしい。


「新しい社会への不安は?」


私がからかい半分にそう言うと、皆は緊張したような面持ちで話し始めた。声は無理にテンションを上げているような感じで、本当は不安なのが見て取れる。
私も皆より一足早くこの島を出て、未来機関で働くとなった時、とても緊張した。不安半分期待半分…だといいのだが、詳しい数字で表すとすれば、不安6.5割期待3.5割だった。今の皆もそれくらいだろうか。


「やっぱり緊張するな。皆と一緒っていうのは心強いけど…やっぱり、な」


そう言いながら苦笑するのは日向くん。いつも皆を引っ張ってくれる日向くんだから、絶対に大丈夫だ。それは皆も分かっているから、日向くんとなら、と言う人が多い。


「オレは大丈夫に決まってるぜ…って言いたいが、正直無理だ…」


ガクブルと極度の緊張のせいで震えているのが左右田くん。ソニアさんが行くなら、と進んで手を上げた彼だが、今になって彼のビビリ症が出てしまったようだ。でも、彼なら大丈夫だ。


「わたくしは緊張はしていますが、皆さんと一緒だったらなんでもお茶漬けさらさらにできる気がします!!」


さすが留学してきたソニアちゃんだ。新しい世界へ飛び込むことに慣れている。ソニアちゃんなら、持ち前の社交性で上手くいけるだろう。


「オレは自分にできる事をやるだけだ。ペコとも約束したしな」


そう男前に言ってのけたのが九頭竜くん。どうやら彼は、ペコちゃんと共に暮らせるように先に出たらしい。その強い信念があれば、彼はどこに行っても大丈夫だろう。


「オレはうまい飯が食えればそれでいいっ!!」


二カッと笑い、終里ちゃんは胸を張った。彼女らしい理由だが、終里ちゃんはいわゆる本能というところで、なんとなく分かっているのだろう。そんな気がする。本能に任せている彼女なら、ご飯さえあれば死にそうになっても生きていける。大丈夫だ。


「ボクはなまえさんがいるから、大丈夫かな」


そう幸せそうに笑うのが凪斗だ。正直、恥ずかしいからやめて欲しい。が、私も凪斗がいると思うと、とても心強いし安心できる。

そんな事を離していると、船が小さくも見えてきた。船が船着場に辿り着くと同時に、私たちはキャリーを次々と積んでいく。
全てを積み終わり、皆が船に乗り込むと、すぐに船はジャバウォック島から遠ざかった。船着場から段々と遠くなり、すぐに島が小さく見える距離になってしまった。
船旅は長い。けれど、その長い船旅も皆がいるから、少しは短く感じるだろう。私は船旅が少し楽しみになった。

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