…ーーそれから1年と7ヶ月後。

橘さんたちが急ピッチで進めていた建設も終盤をむかえ、完成まで後1ヶ月というところまで追い込みをかけている。
私もこの1年と7ヶ月、自分の役割をきちんとこなし、より良いホームシェア計画を形作った…と願いたい。しかし、初期の計画よりも良くなったことは確実だ。後は皆の反応を楽しみに待つのみ。

そんな私は今、船着き場で大きなキャリーバックを側に佇んでいる。
その理由は、苗木くんがこちらに戻ると同時に、私はジャバウォック島に帰還すれば良いという提案が向こうで上がったからだ。
その提案を聞き、私は飛び上がったのを覚えている。それほど嬉しかったのだ。


「久しぶりっ、なまえさんっ」

「苗木くんっ…!!」


映画とかでよくある、感動の再会シーンのようなその茶番。それを一通り終わらせて、苗木くんをまじまじと見てみる。
…残念ながら、苗木くんの身長は全然伸びていない。


「なまえさん…身長伸びた…?」


残念そうに眉を下げる苗木くん。私と苗木くんとの間には数cmの差しかないのだが、それでも分かるものなのだろうか。


「苗木くんは…うん」


私がそう言うと、苗木くんは目元を手で覆い「言わないで…」と呻いた。ごめん、苗木くん。苗木くんは一瞬遠い目をしたが、すぐに笑顔を浮かべた。身長について触れられるのがそこまで嫌なのか。


「もう終わるかも、って連絡を受けてね。早めに帰って来ちゃった」


てへぺろ☆とでも言いそうな勢い。しかし可愛いのだから仕方ない。むしろ苗木くんのてへぺろ☆は見てみたい気もする。
そんな他愛もない話をしていると、船の出航を知らせる合図がその場に響き渡った。苗木くんと改めて向き合い、お互いに微笑んだ。


「いってきます」

「うん。いってらっしゃい」


今久しぶりに会ったばかりなのに、これから私は行かなければいけない。それが少し寂しかったが、ジャバウォック島を思い浮かべたら、それはなんでもないような気がした。
苗木くんには悪いが、私の優先順位は未来機関なんぞより、ジャバウォック島の皆である。苗木くんもジャバウォック島の一人ではあるが。

船にキャリーと共に乗り込み、苗木くんに手を大きく振る。それを返してくれたからか、心が少し温まった。
さて、皆はどうしているだろうか。

〜〜〜

鼓動のように押し寄せる波の音を感じながら、私はスマホと言えばスマホであるタブレットを取り出した。
まぁ、これは前にも使ったことのある客人用電子手帳の未来機関バージョンのものだ。各々に配られ、自分にあうようにカスタムできる。メールや電話機能もつけられており、本当にスマホのようなものなのだが、皆はこれをスマホとは呼ばない。断固としてこれを"電子手帳"を呼ぶのだ。
若作りのためか、それとも"超高校級"としてのプライドか。私には分からないが、皆には皆の意思があるのだろう。


「…もう…すぐ…とー…ちゃく…」


ジャバウォック島にいるはずの響子さんにメールを打ち、もうすぐ到着することを伝える。
この船がジャバウォック島に着くのは、恐らく昼の3時くらいになるだろう。皆に会えたらいいのだが。そう思い、まだ2時間ほどある船旅のために少し寝ることにした。

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