蜜柑ちゃんの水を運び、お礼を言われたところで蜜柑ちゃんと別れた。
日向くんは苦笑いを浮かべた。
「最初に罪木と会うなんて、どうなるかと思った」
「そう?いい子でしたよ」
「まぁな。でも1番、絶望に酔ってたヤツだったからさ」
「それは過去。これは今、ですよ」
名言っぽくドヤ顔で言ってのけると、日向くんはぷっと吹き出した。ひどい。
「なんか…みょうじとは会ったばっかりだけど、初めまして感がしないな」
「そう?誰かに似てるのかもしれませんね」
そうクスクスと笑いあうと、ロビーの方に行く2人の人影が見えた。
ご挨拶ー、と言いながらそっちに駆けていくと、日向くんは「おいっ」と声を上げながらついてきてくれた。
「こんにちはッ」
「わぁっ!?ビックリしたぁ」
「なにー?おねぇみたいな人、見たことないよー?」
西園寺日寄子ちゃんと小泉真昼ちゃん、だろう。
でも、西園寺ちゃんは身長が伸びて大人びいている。私の身長を抜かして、ナイスバディだ。
こんな大人びいた人に「おねぇ」と言われるのは、なんか違和感がある。
「ワケあって一緒に生活することになりました。みょうじなまえです」
「ワケあり、ってなにかしたのー?殺人とか?クスクス」
「日寄子ちゃん、ダメだよ。女子にそんなこと言ったら。よろしくね。アタシは小泉真昼」
「あっ、わたしは西園寺日寄子。小泉おねぇはあげないよー」
2人を見ていると、とても微笑ましい。2人の身長差はほとんどないから、やっぱり違和感がある。
「こちらこそよろしくお願いします」と返すと、2人はハモって「敬語なんていらないよ」と言ってくれた。お言葉に甘えて、敬語を外す。
考えたら、私はこの島で最年少かもしれない。こんな無礼でいいのか。
「貰っちゃうかもねー?」
「ちょっとっ、なまえちゃん、やめてよっ」
「あり得ないんだけど!!いくらみょうじおねぇでも、潰しちゃうよ!?」
「こわっ…冗談だよ」
「なまえちゃん…」
「ごめん」
さすが西園寺ちゃん。黒いのは健在だ。
「2人はどんな才能なの?」
「アタシは超高校級の写真家。名乗るのはおこがましいけどね…」
「わたしはね、超高校級の日本舞踊家だよ。わたしも名乗っていいのか、分からないけど…」
「そっか」
顔に影がさした。みんな影を持っているのが分かる。だが、みんな前に進んでいる。未来を創っている。さすがだ。超高校級ではない私にはできないと思う。
私は小さく笑った。
「じゃあ私はみんなを支えることにするよ」
この世界にきたからには。
私の言葉の意味が分からなかった3人は、お互いに顔を見合わせて首を傾げた。
どうせ戻れないなら、思いっきり満喫してやる。
← back →