「最近お前、変ですよ」
「……なに、急に」
「何もない、関係ないなどとはぐらかしてばかりで、一体何なのですか」
あからさまにワタクシの事を避けて歩くようになったくせに。話しかける機会すら与えてくれないくせに。職場ですらマルチ以外に顔を合わせなくなったくせに。何が何も無いですか。何か困っていることがあるのなら、ワタクシだって多少は力になれるかもしれないというのに。
こうして態々ダブルを終えた愚弟を待ち伏せてようやく捕まえた。捕まえはしたけれど、相も変わらず口を閉ざしたまま。眉間に皺を寄せ不機嫌だ、と物語る表情、変わらず愚弟は笑わない。
「何でも無いって何度も言ってるでしょ?いい加減放って置いてくれない?」
「何か悩んでいたりするのでしたら、さっさと吐き出せば良いでは無いですか」
一人で抱え込むのは愚弟の悪い癖だ、それはこの数十年共に生きてきたので重々理解しているつもりだ。だからワタクシはいつだって、爆発してしまう前に吐き出させてやっていた。今回も、同じだと思っていたのです。しかし返って来た言葉は容易にワタクシを裏切って見せた。
「兄貴面しないでよ、鬱陶しい」
やけに低い声でそう言い捨てて私の横をすり抜けて人混みに紛れていってしまいました。痛い、痛い。何が痛いのかは分からないが何かが痛い。この痛みは何なのだろう。釈然としないままその日愚弟と顔を合わせることはありませんでした。
気まずいまま迎えた久しぶりの揃っての休日、今日こそ愚弟を問い詰めてやります。そう意気込んでみたものの、何の物音もしない。まだ寝ているのでしょうか。無音、ワタクシが立てる音だけが申し訳程度に響きます。折角ですし、起こしにいってやろうじゃありませんか。なんて優しい兄なのでしょうワタクシ……ジョークにもなりませんね。下らない事を考えたまま、愚弟の部屋の扉を開きました。
「っ……!?」
ワタクシを迎えたのは寝ている愚弟でも起きて何かをしている愚弟でも無く。何もない、この家に越してきた時と全く変わらぬ何も、真っ新な部屋でした。これは一体何の冗談でしょうか、何も無いのです、確かに昨日までは……昨日までは……。
何が起きているのか分からないまま、ワタクシは混乱しているようです。ガチャリ、と玄関の扉が開く音がして。弾かれたように部屋を飛び出し玄関に向かう、そしてそのままその場に立っていた人影…もとい愚弟に掴みかかった。
「……これは一体何の真似ですか?」
「……」
「応えなさい、エメット!!」
「何って……見て分からないほどインゴも馬鹿じゃ無いでしょ?」
「っ……そういうことを言っているのでは無いのです!何故急に……同居の話を持ちかけてきたのはお前ではないですか!今更……!」
掴みあげたままされるがままになっている愚弟の表情からは、何を考えているか読み取ることすらできず。ただ声を荒げることしか出来ない、何故、何故、どうして、それだけが脳内を支配していく。
「もう、五月蠅いな……黙って、インゴ」
「や……、嫌です!!ワタクシこんな事認めません!」
「黙れって、言ってるの」
そこで初めて成されるがままだった愚弟がワタクシの腕を掴む、妙に威圧感のある言動にワタクシは思わず掴んでいた手を放した。違う、確かにこれまで愚弟は笑わなくなっていたけれど、確かにエメットだった。ですが、今ワタクシの目の前に居るのは一体誰ですか?こんなエメット、ワタクシは知らない。
「せめて、せめて理由くらい説明したらどうですか……」
精一杯普通に振る舞おうとするものの、自然と声が震えてしまった。ワタクシ、上手く喋ることが出来ているでしょうか。
「……黙れよ」
瞬間、腹部に一瞬圧迫感、視界が暗転しました。
目が覚めるとそこはワタクシの自室で。無論、隣の部屋は主を失い閑散としたまま。外は先ほどよりかすかに日が高くなったらしい。……この短時間で一体何が起きたのか把握しきれずに、ワタクシはベッドの上で呆然とする事しか出来ませんでした。
愚弟が出て行きました
―――――
(……何が起きたのですか?)
久しぶりの更新になります、お久しぶりです茉麻でございます。
間もなくこの話は完結に向かうはずです、と言いますか完結させなければどうしようも無いのですが。
私の書きたい事を書いているのでながれも何もあったものではないですが、多めに見てやってくださいませ(^q^)
2012.12.02 執筆