解ってる癖に | ナノ


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ふとしたとき、僕は無意識に目で兄さんを追っている事が増えた。こんな事はあってはならない、業務に集中しなければ。そう思えば思うほど勝手に兄さんを視界に捉えようと必死になっている自分が居て。これは一体どういうことなのだろうか。



「…分からないな」

「何がです?」

「……っ!?兄さん急に湧いて出てこないでよ…」

「湧いてだなんて失礼ですねぇ、私は虫か何かですか?クダリ…」



ため息をつく兄さんの顔は僕の顔の真横にある。いや近い、近いよ兄さん。すぐ近くで聞こえる兄さんの呼吸音、鼓動まで聞こえてきそうな程だ。いや密着しているから聞こえてもおかしくはない。ああそんなに覗き込まないでよ、何だか動悸が、それに顔も熱い気がする。



「クダリ?顔が真っ赤ですよ?熱でもあるのですか?」

「きっ、気のせい!気のせいだよ!そうだ、僕ATOの事で報告があるから行ってくるよ!」



背後であまりは無理をしてはいけませんよ、と兄さんの声がするのも聞かなかったことにして部屋を出る。報告があるなんて真っ赤な嘘だ。何故とっさに嘘をついてしまったのだろう。それも尊敬する兄さんに、だ。自分の行動が信じられない。僕は一体どうしてしまったのだろう。
丁度ライブキャスターが鳴り響き、ダブルトレインに挑戦者が来たと連絡が入ったので嘘がばれることは無いと信じても良いだろう。










挑戦者が途中下車してしまったので、執務室へ戻ろうとホームを歩く。兄さんはまたサボっているのだろうか、少しは自発的に仕事をするという事を覚えてくれても良いのでは無いだろうか。強く言えない僕にも非はあるだろうが…そんなことを考えた矢先に反対のホームに兄さんの姿、それに



「…クダリ君?」



兄と一緒に居るのはゲームの世界の僕、クダリ君で。何をしているのだろう、遊びに来るのなら事前に連絡をくれればお菓子の一つや二つ用意しておくのに。二人で何をしているのだろう、立ち止まって様子を窺う。





残念というか当然というか、もちろん二人が何を話しているかなど、全く聞こえる訳もない。しかし、見えてしまった。見てしまった。一気に顔から血の気が引いていく感じがした。手先が冷たい、心臓が痛い。何だ、二人は何をした?どうして?何故、二人は…キスを…した?










気が付いた時には自然と走り出していた。とにかくその場から逃げたくて、逃げたくて。そこに居たくなかった、それを見たくなかった。走ってたどり着いたのは執務室の隣にある僕等サブウェイマスターに与えられた個人的な私室で。息を整えながら少し落ち着いてきた僕の思考が弾き出した結果は。



「兄さんは、クダリ君が…好きなのか…」



そう吐き出すように呟いた途端、堰を切ったように涙が溢れ出した。何故、僕は泣いているのだろう。どうしてこんなにも胸が痛むのだろう。兄さんが幸せならそれで良いではないか。なのに何故僕は、僕は、僕を…



「クダリ、」



聞こえた声に顔を上げるとそこに居たのは兄さんでは無く、僕と同じ白で。



「クダリ…君」

「ねえクダリ、なんで泣いてるの?ねえなんで?」



言われて漸く自分がどんな顔をしているかを思いだし、乱雑に涙を拭おうとした。しかし、それは僕の腕を掴んだクダリ君によって阻止されてしまった。



「ちょ、放してよ…!」

「いや、放さない」

「どうして…っ?」



途端、視界が暗転、目元を何か温かくぬめる物に舐められた。舐められた…?



「き、君!一体何して…!?」

「何って、クダリ泣いてる。だからぼく、涙拭っただけ。」

「拭うって…そんな、なっ、なめっ…!?」

「うん、舐めた、やっぱり涙ってしょっぱいね」



至極当然、とでも言うような顔でさらりと言ってのける僕と同じ顔。それでもその表情は真面目で。とてもさっき兄さんとキスした…そうだ、クダリ君は兄さんと…。思い出すとまた溢れる涙、とてもじゃないけど止まりそうもない。ねえクダリ、泣かないでよ。なんて聞こえるけどこっちはそれどころじゃない。今気が付いたんだ。僕は兄さんが…



「ねえクダリ、君のノボリのこと、好き?」

「っ!!!」

「あはは、顔真っ赤。やっぱり好きなんだ」

「き、君には関係ないだろ!?だって君…兄さんと…」

「…ねえクダリ、ぼくね、クダリが好き」

「……は?」



今何と言った?兄さんとその、キスした輩は何と言った?冗談もほどほどにしてくれ。ただでさえ僕はたった今自分の気持ちに気付いたうえ失恋までしてしまったというのに。たちの悪い冗談だ。



「冗談なんかじゃない、ぼく、本気だよ」

「ふ、ふざけるなよ!君は兄さんの気持ちを弄ぶつもりか!?」



思わずクダリ君の胸倉を掴み上げてしまった、が、この際そんなことはどうでもいいのだ。兄さんが、兄さんの幸せを願わなければならないのに、その相手がこんな調子じゃ僕は…。ぼそり、とああ、なんだそういうこと。とクダリ君が言った気がするがいったい何のことだろうか。



「ねえ、君のオニイサンに手を出すのだってすっごい簡単。でもね、ぼくはクダリのほうが好き。」

「…何を言っているんだ?」

「あのね、クダリがうんって言ってくれなかったらぼく、ノボリの事すっごい傷つけちゃうかもね。」

「…は?」

「ボロボロで傷ついて笑えなくなったノボリ、クダリは見たい?」



そこまで言われてようやく気付いた、こいつは兄さんで遊んでいたんだ。そのうえ兄さんを使って僕を強請るつもりときた。…わかってる、こいつは僕がYESというとわかってこんな話を持ちかけたんだ。悔しいけどその通り。僕は兄さんが悲しむ顔は見たくない、傷ついて欲しくない。だから僕は、僕は。



「さあ、どうするの?YES?NO?どっち?」










ニタリ、と僕の目の前で悪魔が笑った。










解ってる癖に

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だんだん文章が暴走して何がしたいのかわからなくなりましたよ^q^
ただ私はゲスいゲークダちゃんを自給自足しただけです、誰か供給を…

2012.11.02 執筆


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