あの時貴方は、 | ナノ


突然ですが愚弟が笑わなくなりました。今まで鬱陶しい程度に誰彼構わず愛想を振り撒いていたのが嘘のようにです。何があったのか、と尋ねても何も無いの一点張り。しかも当人はどんな表情をしているか気付いていない始末。ですからワタクシにも原因が解らないのです。笑わなくなってからどれくらいの時間が経ったかも解りませんが、長いようで短い時間のような気が致します。










日常の生活や仕事には全く支障はないのです。ただ、笑わなくなっただけで。そう、笑わなくなっただけなのです、今のところは、ですが。



「インゴー、ここに書類置いとくからね」

「お前にしては仕事が早いですね」

「やだなぁボクいつもちゃんと仕事してるじゃない!」



ワタクシ達も腐っても双子ですから、基本的な顔の作りは似通っております。故に、目の前にいるのは鏡に映したように白を纏うワタクシなのです。上手く言葉に言い表せない事が非常にもどかしくて仕方が無い。いつもと変わらぬ会話、ただ一つ違う表情、これに違和感を感じない訳がないではありませんか。










ホームを歩いていても、書類に目を通している時も。何をしていても。



「白ボス笑わなくなりましたね」

「エメットさんどうしたのかな」

「まるで黒ボスそっくり」

「まるでインゴさんみたい」



と、皆一様に言うのです。違う、違います。ワタクシはワタクシ、愚弟は愚弟なのに。何故他の奴らは違和感を感じ無いのです?ワタクシ達の上辺しかみていないからそのようなことを宣えるのですか。こんなにも何かが、不足していると言うのに。



「……お前」

「……インゴ、何でも無いって言ってるでしょ?」



じゃあ、ダブル呼ばれてるから。そう言い残し逃げるように執務室を出て行きました。パタン、と小さく音を立てて閉じた扉を軽く睨みつける。



ゆっくり愚弟と話をしようにもら避けられ、休みもなかなか合わず(これは愚弟が上層部に何か言っている可能性が高いですが)すれ違う毎日が続き、苛立ちのみが積み重なっていく。



「……最近、タバコの本数が増えましたね」



ワタクシタバコは嗜まなかった筈ですが。誰に言うでも無く呟いた言葉は、静寂に掻き消されていきました。





愚弟が笑わなくなりました

―――――
短編という名の中編。非常に纏まらないお話。気合いで4ページには収めたい…です…!

2012.10.22 執筆
2012.12.02 加筆修正


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