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こ こ は き っ と ゆ め の な か だ

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高校指定のカッターシャツが濡れることも厭わず、傘も差さずに雨に濡れる彼の姿は悲しげだった。目立つ紅白の髪が雫を弾き、頬を伝ってぽたぽたと落ちていく。その姿を見ていられなくて声をかけた。

「焦凍くん、そのままじゃ風邪引くよ。」

黙ったままの焦凍くんはそのまま流れるような動作で私を抱きしめる。156cmの私と176cmの焦凍くんとでは差がありすぎる身長。ひんやりとしたシャツの感触と冷えきった腕にぎょっとして、裏返った声で帰ろうと促した。

「雨が酷くなる前に帰ろう?焦凍くんの手、こんなに冷えてる。本当に風邪引いちゃうよ?」

「っ、ぅッ……」

漏らされた嗚咽から彼が泣いていることに気付いた。きっと落ちていた雫の中には涙も混じっていたのだろう。

「悪ぃ……泣くつもりは、なかったんだ……」

「大丈夫だよ。大丈夫だから、焦凍くんのペースで落ち着いて?」

グズグズと鼻を鳴らす焦凍くんは、普段から見れば考えられないほど弱っていた。私はヒーロー科に所属しているわけではないから原因はわからない。ただ一つだけ言えるのは、先程の2回戦がどこかで関係しているということだけである。

焦凍くん自身の戦闘へのプライドは高い。そしてエンデヴァーさんの過度なストイックな性格も相まって、余りある力を持っていると思い込みがちだ。あながち間違っていないが、焦凍くんのメンタルは人一倍繊細なのだ。

「俺はあいつより強え。なのにッ……あいつは、できなかったことを容易く、やってみせた……!戦闘において、左はぜってえ使わねえって、そう決めたのにあいつはッ……!」

『あいつ』というのは恐らくヒーロー科A組で焦凍くんに負けた、あの”緑谷出久”くんのことだろう。左は絶対に使わないという焦凍くん自身の決めたことを、君の力じゃないかと叱咤し、私ですら見たことのなかった焦凍くんの炎を出させたあの人。

「……ごめんね、本当は私が焦凍くんを救わなくちゃいけなかったのに、何も言えなくて。」

心臓が喚いて、声が震えて、落ち着かない。あの時の約束を伝えなくてはいけないはずなのに。私が助けるよと言わなければならないはずなのに。言葉が紡げない。はくはくと口を開けるだけで出されるのは音ではなく空気だ。

「なまえ、俺は」

オッドアイの両目からとめどなく流れる涙を見て胸が痛む。焦凍が何か言おうとしたのだが、タイミング悪くそこまで聞こえてから視界はブラックアウトした。

***

「……また、夢か。」

体育祭の途中で眠気に襲われた私は、試合の途中だというのに眠りこけて夢を見ていた。

私だって焦凍くんのことが嫌いなわけではない。どちらかと言えば俗に言う彼氏彼女という関係であるためお互いがお互いを好いている。ではなぜあんな夢を見たのか。答えは簡単、個性が夢に近しいものだからだ。

私の個性は”予知”。身体能力が秀でているわけでも未来が見えるわけでもないが 相手の動きを読んだりとか、次の対戦相手がわかるとか、そういった個性だ。単に相手の動きが映像として脳裏に映ることもあれば、予知夢を見ることもある。といっても、予知夢に関しては全くの無知であるため夢を見ても関係の無い夢だったりもする。要するに、どれが本当の予知夢なのか見当もつかない。

これが予知夢だとするのならば当分雨には気をつけなくてはいけない。私は、焦凍くんの泣く姿を見ていられないから。

(そして迎える体育祭後)


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