ふわり。漂うような感覚から抜け出すときは頭がガンガンと痛む。
どうやら夢を見ていたようだ。
どんな夢だったかまでは思い出せないが、どうにも後味の悪い夢だったと思う。
ロザリー様が亡くなってからこんなことばかりだ。
「まだ、眠いなぁ……」
くっ、とあくびを噛み殺して起き上がる。
隣のイエティはまだ気持ちよさそうに寝息を立てている。折角気持ちよく眠っているのに起こすのは忍びなかったので、起こさないようにそっと部屋を出た。
私はロザリー様と同じ階で眠ってはいけなかったから、イエティと地下室で眠っていた。居心地や環境も悪かった訳では無いので文句などは一つもないのだが。
どんよりと曇ったロザリーヒルの今日の朝は気分までをも落ち込ませる。頭痛は一向に引かないし、むしろ痛みが増していく気さえした。
だが上にはピサロ様がいることを知っていたので眠い目を擦りながらも着替えた。人前に立っても恥ずかしくないくらいには整えた身なり。そうして今日も、私はあの人の前に立つ。
「おはようございます、ピサロ様。昨日は何をしたんですか?」
「嗚呼、ナマエか。昨日は、ロザリーを殺した人間にどうやって復讐するかと話していた魔物どもを制してばかりだったな――― 」
ピサロ様は私に外の世界でやったことをたくさん教えてくれた。私自身がまだ見たことのない世界だったからか、もっと知りたいと思ってしまうのだ。
だけどあの夢を思い出したらと考えると、なぜか胸がざわつく。
まるでロザリー様に次いでピサロ様がいなくなってしまうような気がして気が気でなかった。
けれどそんな日常は呆気なく崩れ去ってしまって。
ピサロ様と最後に話したのは5日前だっただろうか。ある日武器屋や道具屋をしているおじいさんが血相を変えて教えてくれた。
ピサロ様が勇者に殺されてしまうと。
ほら、やっぱり。嫌な予感はしてたのに。
信じたくなかったけど、信じるほかなくて、聞いた後は四六時中泣いていた。
受け入れてしまったらピサロ様が記憶の中から消えてしまいそうで、忘れられてしまいそうで、怖い。
「だって、あの人たちはわたしの、っ……大好きな人、だったのに…!死んでしまうだなんて……そんなのッ、そんなのあまりにも残酷だわ……!」
1人きりになってしまった最上階のこの部屋で嗚咽を漏らしながら情けない声で泣きじゃくる私。どうしてロザリー様もピサロ様も、私を置いて行ってしまったの?
二人が愛し合っていることも知っていたし、私の恋が結ばれないことも知っていた。だからこそ二人の幸せを心から願っていたのに。
ロザリー様は人間の手で、ピサロ様は勇者の手で、記憶から忘れ去られる人となってしまった。
どれもこれも夢だったなら。今すぐ、全て忘れてしまえるのに。
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