「あら?懐かしい顔ね……テリーじゃないの!デュランの館にいた時よりも成長してるわね。まぁでも……あなたじゃまだ、私には届かないわ。」

ぶわっ、と身の毛もよだつほどの殺気が俺たちを襲う。にこりと笑いつつも恐ろしさは変わらない。

「私も仕事なのよ、悪いけれど体力と魔法力が尽きるまで頑張って避けてちょうだい。」

足元に展開された魔法陣からはひしひしと魔力が伝わってくる。放たれる呪文の標的は俺だろうか。

「テリー、あなたは私の戦い方を知ってる。だからこそやりがいがあるってものよ?でもね、まずは彼からよ。」

刹那、目を瞑りたくなるほどの閃光と大きな火球 ―恐らくメラゾーマ― がレックに降りかかった。

「っ!」

反射でレックがラミアスの剣を振り上げ相殺した。火の粉がちらちらと舞う。

「まぁ、今のを”斬った”の?さすが魔王討伐を目指す者たちね…」

笑いながら軽口を飛ばしているが、あいつはもう俺たちの実力を見切ったはずだ。最早勝ち目はないかもしれない。

「おいナマエ、お前は一体何が目的なんだ!?答えろ!」

「目的?そんなものハナからないわ。私は、ただ面白いことに着いていくだけだもの。今はテリーたちの相手が面白いから……」

クスクスと笑い、杖を振りかざす。
杖からはメラミとヒャダルコの雨が絶え間なく降り注いでいる。

一つ一つのダメージは小さいが、そのダメージが積み重なれば話は別だ。

「ミレーユ、マホカンタだ!」

「ええ…分かったわ。」

姉さんがレックにマホカンタを唱え、バーバラが俺にバイキルトを唱えた。力が漲って来る。そしてチャモロがベホマラーを唱える。

しかしナマエも負けじと補助呪文を使う。

「守護精よ、我に鋼鉄の如き守りを与えたまえ!”スカラ”!」

「はああぁッ!ギガスラッシュ!」

「氷は炎をも包み光をも閉ざす。冷気は人を殺める大罪なり。上級氷結呪文、”マヒャド”!」

激しい攻防が続きしばらくした頃。

レックの剣がナマエの頬を掠めた時にそれは起こる。

「当たった! 少しのダメージは与えられたぞ!」

頬を血が伝った瞬間、ナマエはスッと目を細め、振りかざしていた杖を乱暴に投げ捨てた。途端に降り注いでいた火球と氷の粒は消え去る。

ぽう……と空中に現れた球体。

本能が、直感が、あれは危険だと判断する。

「弱者が……足掻いてどうなるって言うのよッ……!アンケルナ・ハマンテ・ソノ・シムシラーン・ドハティール・ホー・エイザンメイザン・レイスパラン・ジェムネイバー・ラビシュリ・ヴェル・サリヤンカ・ミゾナム……」

ぶつぶつと唱えられる魔法の詠唱。

急激な魔力の膨れ方にバーバラが怯む。そして。

「みんな、避けてッ!!」

あいつの全ての魔力が解き放たれた。

「……マダンテ!」

じんじんと焼けるような熱と煙に思わず噎せ返る。まともに受けたからか全身が痛い。

かろうじて動く目を酷使して周りを見る。

レックやバーバラ、チャモロ、姉さんが倒れ込んでいるのが見えた。

かくいう俺も、地面に向かって意識が落ちていく。

「ほら、ね?私には敵わないって分かったでしょう?あなたたちは強い、でもまだ魔王には値しないのよ。本物の強さが分かったとき、もう一度戦いましょう。今はあなた達にとってのさらなる強さを求めるべきだわ。」

その言葉を最後に俺たちは全員意識を失った。

次に目が覚めた時には、全員分の特薬草や万能薬が詰められた袋とともに仲間と仲良く教会で眠っていた。

聞けば黒服に身を包んだ魔術師―――……ナマエがここまで連れてきたという。

さらなる強さとは、何なのか。

それを知るのは俺たちがムドーを討った後の話になる。

(Title by:確かに恋だった様より)



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