焼き尽くされてしまった故郷の村。
綺麗な花畑があった場所には毒の沼地が広がり、昨日までにこやかに笑っていた家は炎でめらめらと燃え上がっている。燃える家の中にはソロとシンシア、私の家もある。
魔物が攻め込んできたとき、私はソロを守るように言いつかっていた。
私がどれだけ強い魔力を持っていても、それを見せてはいけない。絶対に隠すんだよ、と釘を刺されていたのだ。
その約束を破ってしまえば、今守れなかったものも守れたかもしれないのに。
山を下りて少し歩くとスライムに襲われた。
ソロは初めて見る魔物に怯えるかと思ったが、そんなものは杞憂でしかなかった。
目に映るのは魔物に対する憎悪のみ。
出会う魔物すべてを射殺さんとする目を見て、私は慌ててヒャドやギラを詠唱するのだった。
エアラットやおおみみずを切り付け、返り血が付くことも気にせず、ただひたすらに剣を振るうソロが、魔王よりもよほど恐ろしい存在なのではないかと思う。
そして数十分、私たちにとっては数時間ほどに感じられた時間を歩き続け、ようやく見えてきた木こりの家。
そこに住むのはソロのおじい様だと聞いていた。
きっとその人ならば一晩は泊めてもらえるだろうと考えて私はある許されざる暴挙に出た。
「ソロ。」
「………なんだ…」
「今日はもう疲れたでしょ?怒りに身を焦がすのは体に良くないわ。」
ひどく疲れ切ったソロの声が。また私の心に刃を突き立てる。ぐさり、ぐさりと抉りぬくように。
「ナマエ、だからどうしたって言うんだよ。俺はシンシアたちを殺したデスピサロを…倒さなくちゃならないんだろ?」
あぁ、どうやらもう私には取り合ってくれないようだ。
だったら手っ取り早く眠ってもらわなければ。
「ソロは少し、気負い過ぎちゃうところがあるの。だから、今だけは眠っていて・・・・夢の精よ、かの者を深き眠りに誘いたまえ。"ラリホーマ"。」
恐らく効かないであろうラリホーは、詠唱するだけ魔法力の無駄だとわかっていた。だからソロには申し訳ないけれどラリホーマを使わせてもらった。
そして、もしもの時のために教えられていた言葉を紡ぐ。
「天空の勇者よ、今は眠れ。この世界を混沌から救うため、そなたの力が魔族にとっての大きな脅威であることを知るのだ。そうして次に目を覚ますとき、私はそなたのそばにはいられない。しかし案ずることなかれ。そなたには力強き仲間がいる。散らばった仲間を探せ。さすればそなたの旅は始まるであろう。」
おやすみなさい、ソロ。
どうか良き仲間と出会えますように。
そして願わくば、もう二度と会うことのありませんように。
後悔の念と自責でいっぱいになった心は、どうしようもないくらいにぽっかりと穴が開いた気分で。
もう私はソロとは一緒にいられないのだと痛感した。
あーやだやだ、そんな辛気臭い雰囲気アタシ苦手なのよね。と、笑い飛ばしてくれるような仲間が、私も欲しかった。
誰に対してでもないけれど、口から出る言葉は謝罪ばかりだった。
ごめんなさい。どうか許して。守れなくて。みんな大事な人だったのに。
もっとしっかりと貴方を守ることができたなら…
魔族の王と対等に渡り合える実力があったなら…
ソロが勇者としての生を持っていなかったなら…
考えれば考えるほどIfの可能性が増えていく。
私に、何ができたわけでもないのに。
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