『ルイーダの酒場』

そこで私と共に旅をしてくれる誰かを探していた。



***

あの大地震が起きた日。あの時から天使の時間が止まっているように感じた。実際は私だけがそう感じているだけで周りは全くと言っていいほどに無関心だった。挙句の果てに守護天使像があったことすらも記憶から抜け落ちている始末。馬鹿げた話かもしれないが、私はどうしても天使の見る世界を見てみたかったのだ。あの日から何かが狂い始めている気がしてならなかったから。

旅に出る日はそう遠くなかった。リッカさんの友人 ____ ナインさん、という方が私を旅に連れていってくれるそうだ。そして初対面の時がやってきたのだが。

「初めまして、ナマエさんですよね。僕はナイン。よろしくお願いします。」

にっこりと笑ってそう言った彼の背には純白の翼、頭上には淡く輝く輪が。夢にまで見た天使だ。そう思わざるを得なかった。思いがけない出会いに、彼をじっと見つめてしまう。

「どうかしましたか?僕の顔を見つめていたようでしたけど・・・・」

「ぁ・・・・すみません。その、あなたの背中にある翼と輪っかは装備なのかな、と。気になってしまって。」

私が翼と輪っかは装備なのかと問えば、少しの沈黙のあとに否定された。私が見ている物は実際に存在するのだということだ。それが何を意味するか。それはつまり。

「ナインさんは、天使なんですか?」

「ッッ・・・・!すみません、隠しているつもりはなかったんですけど・・・・気づいちゃいましたね。ナマエさんの言う通り、僕は天使です。少し前までウォルロ村で守護天使をしていました。」

”少し前まで”という言葉に引っ掛かりを感じる。何かしらの事情があり、今は守護天使ではないようなニュアンスを含むナインさんの言い方がさらに探求心を煽った。

「あの地震が起きた日から変わってしまったんですか?」

「多分そうだと思います。僕はその時天使界・・・・あ、天使が生活をする場所です。そこから振り落とされてしまって。だから僕、帰る方法を探してるんです。」

「天使に天使界・・・・そうか・・・・なら私、ナインさんの帰り道探しに協力したいです。」

「えっ!?でっ、でも、それはナマエさんの旅の目的とは合わないんじゃないですかっ?」

動揺が隠し切れない上擦った声でそう尋ねてきたナインさんは、どうやら私の目的を知らないらしい。リッカさんが伝えそびれるなんて珍しいこともあるものだ。

「ふふっ・・・・ナインさんはご存知ないかもしれませんが、私が旅に出た目的は天使の世界を見るためなんです。ですから、旅の目的と合わないどころか、ぴったり一致してるんですよ。」

「そうだったんですか!?ルイーダから何の話も聞いてなかったので、びっくりしました・・・・」

前言撤回。ナインさんに話を通してくれたのはリッカさんではなくルイーダさんだった。まぁ、ルイーダさんが唐突にあの子と旅をしてほしい、この職業ならその子がいいわ、なんてポンポン仲間を連れてきてくれるから今のような状況も最早慣れてしまっている。そんなことよりも、今は目先のことに集中しなくては。

「もしかしたらもう引き返せないかもしれません。ナマエさんは、それでもいいんですか?」

「私が求めた世界を少しでもいいから見てみたいんです。その為ならこの命がどう扱われても構いません。ですからどうか、私に手伝わせてくださいッ・・・・!」

多分、こんなの一生に早々ないだろう。頭を下げてでも、土下座をしてでも、どうしても連れて行ってもらいたい。そんな思いが私の中を駆け巡っていった。頭を下げ続けて少し。もう戸惑っていたような影のない、しっかりとした口調でナインさんが口を開いた。

「ナマエさん、頭を上げてください。あなたの気持ち・・・・しっかり受け止めました。ナマエさんになら僕の帰路探しを安心して頼めそうです。」

にっこり笑って私の手を取ったナインさん。求めるものはどこにあるのか全く見当も付かないけれど、でも実在するのだから見つかるに決まっている。根拠の無い自信と、それからナインさんと私の力があればきっと。



***

そうしていたら、あっという間に旅立ちの日だ。リッカさんがナインさんに、ルイーダさんが私に、それぞれ激励の言葉をかけてくれ、
レナさんやロクサーヌさんたちからは薬草やどくけし草を餞別としていただいた。

「二人とも頑張って。でも無理だけはしないこと!辛くなったらいつでも帰ってきていいからね!」

「じゃあねナマエ。ナインとちゃーんと仲良くするのよ?また泣いて帰ってきても今度は面倒見きれないわよー。」

それぞれに挨拶を返し、私たちは共にセントシュタインを後にする。まず目指す場所はシュタイン湖。そこで黒騎士を倒し、天使への手がかりを見つける。

(待ってなさい黒騎士さん!)
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