小さい頃から変なものが見える。他の人には見えないらしいそれは、今のあたしにとってすごく、すごくいらないもの。
あたしの亡くなった祖父は妖力を持っていたらしく、妖怪が見える人で祓い屋と言うものをやっていたらしい。
両親にはそんな力は一切なく、孫のあたしに祖父の力が濃く出たんだって泣きながら言っていたのを覚えている。
妖怪が見えるせいで追い掛けられる。何度も食べられそうになったし、どこかに連れて行かれそうになった。
どうしたらいいかわからなくて、ただ逃げまわる毎日。
それのせいであたしは、妖怪が怖くて仕方がない。
Uno, Due, Tre.01
「おーい、この間のテスト返すぞ」
担任の先生が順番に生徒の名前を呼んでいくのをちらりと確認しすぐ窓へと目線を逸らす。
早くこの町から出たいと考え始めたのはいつからだっただろう。
うーんと考える素振りをしても思い出せない。すぐ側でふよふよと浮いているやつを見てひと睨みした。
「あ、あの…」
「え、なに」
窓を見ていると、急に隣の席の子が声を掛けてきた。あぁ、最近転校してきたなんだっけ、名前は。
そう言えばさっき先生が呼んでいた気がするんだよな。そう考えてもいないのに、また考える素振りをした。あ、そうだ。
「なつめ、 たかしくん」
そうだ、夏目貴志君だ。普段自分から話しかけることがないのか、目をきょろきょろとしどろもどろになっている。首を傾げると少し頬を赤らめてうんと小さな声で返してくれた。
何となくだけど人と付き合うのが苦手な子なのかもしれない。そう思ってしまった。
「何度か呼んでたけど来ないから渡しといてくれって先生が…」
「え」
変なことを考えていたせいで先生が呼んでいたのに全く気付かなかった。いや、気付かないふりをしていたのかもしれない。
黒板の方を見れば次は呼ばれたらちゃんと来いよーと手をひらひらと仰いでいた。
目の前でプリントを差し出してくれてる夏目君にありがとうと一言お礼を言い、お互い前を向く。
初めて転校生と話したが悪い子ではなさそうだ。時たま変な行動をするものだから、まさかねと思いつつ今まで話すことがなかったのだ。
ほらあそこ、黒板ら辺に丸いものが浮いている。害はないが、変なものが見えると寄ってくるので目を合わせないようにしている。
さっき睨んだやつもその類いのもの。あれはただ浮くだけの存在だから怖くもなんともないけど。
あたしには祖父がくれたお札があるから襲われはしないけど、毎日うんざりしてる。運が良ければ食べれると思ってる妖怪、ただ暇だから遊んでるだけの妖怪に始終追い掛けられているせいで。
そう言えば夏目君に自己紹介してなかったと今更ながら気付き、少し後悔もしつつ声を掛けようと口を開けた。
「夏目君」
小さく呼んだだけ。夏目君は肩をぴくりと揺らすが、気にせず話し掛けた。
「まだ自己紹介してなくてごめん。あたし兎ノ塚柚季、よろしくね」
「っあ、おれっ、夏目、 貴志…よろしく」
先生に怒られるのもあれなので小声で会話を続ける。笑顔で自己紹介をすれば、ぎこちないが控えめに笑ってくれた。笑顔が硬いがそういや夏目君は転校生なのだ。緊張するのは当たり前。正直言うとあたしも緊張してる。
これから仲良くなれるといいな、と君の綺麗な横顔をチラリと見つめた。
20140527
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