曖昧にわたしを浸食
最悪だ。さっきの戦闘で足を挫いてしまった。右足が痛むため、左足に重心を置く。立つだけなら誰にも分からない。けど、歩くとなれば右足を引きずって歩くこととなるため、皆に怪我をしているのが気付かれてしまう。どうやってこの状況を打破するか………。駄目だ。私の馬鹿な頭じゃ、考えられない。
いつも私のせいだ。いつも、私が足手まといになって皆に迷惑をかけている。旅の邪魔をしてばっかり。けど、皆は優しいから私の心配をしてくれる。…大体、不死ではない私が今まで皆と一緒に旅をしてこられたのが不思議なぐらいだ。本当なら、とっくに死んでいるはず。けど、私は生きている。………その理由は分かっている。けど、認めたくなかった。認めてしまったら、多分、自分の気持ちに気付いて後悔することになる。
「ナマエ、顔色が優れないが、先程の戦闘で何かあったか?」
目の前を主人公とレイオン、ステイアと謎の男の組み合わせで歩いており、私たちは列の最後尾を歩いている。一番後ろなら足を挫いていることを悟られないだろうと思ったが、彼は些細な変化すら見逃さなかった。
「ヘラクレス」
彼の名を呼ぶ。今日は一段と風が強い日だ。この吹き荒れる風に掻き消されるような小さな声で呼んだが、彼が聞き逃すことはなかった。ん?とだけ言って、私の方に顔を向けた。
「大丈夫。気のせいだよ」
顔を上げ、笑ってそう答えた。ヘラクレスは、そうか…、とだけ言って視線を前に戻した。そう。これでいいんだ。
すると、突然、ヘラクレスは足を止めた。主人公たちはそれに気づかず、歩き続けている。私だけ足を止め、不思議な行動を取ったヘラクレスを眺める。何かあったのか。どうしたの?そう声をかける前にヘラクレスは私に近付いてきて、私の体は宙を浮いた。ヘラクレスの腕が私の脚と背中を支えており、いつも以上に彼の顔が近くにあった。
「なっ、何するの!!」
思わず声を張り上げてしまい、主人公たちが後ろを振り返る。皆何があったのかとぽかんとしているが、レイオンだけ笑っている。レイオンめ、後で覚えてろ。…なんて思う余裕なんてなかった。突然、抱えられた動揺と皆に見られているこの状況に顔がどんどん熱くなる。今すぐこの場から消えてしまいたいぐらいだ。
「ヘ、ヘラクレス、下ろして…」 「あの程度の嘘で私を騙せるとでも思っているのか?」
その言葉に驚き、ヘラクレスを見る。目が合った。綺麗な瞳。彼の目は力強く、何もかもお見通しのようだった。ヘラクレス、ナマエは怪我をしているの?ステイアが心配そうにそう聞いてきた。ああ、気付かれたくなかった。また皆に迷惑をかけてしまう。
「どうやら、先程の戦闘で足を挫いたようだな。次の町までもう少しだ。それまでは私がナマエを運ぼう」
ヘラクレスがそう言うとステイアは了承し、他の三人に、ナマエのことはヘラクレスに任せましょうと言い、再び歩き出した。その時、ステイアは私の方を見てにこりと笑った。あれは大人しくしていなさいということか。彼女は私の気持ちに気付いている。だから、彼女なりの配慮なんだ。けど、そんなの必要ないのに。
「ヘラクレス。私、大丈夫だよ。だから…」 「そなたは私たちと違って不死身ではない。何かあってからでは遅いだろう」 「けど、挫いたぐらい、少し我慢したら…」 「もし、その状態で戦闘になってはどうする?魔物の攻撃から逃れられず、死んでしまう可能性は0ではないのだぞ」
多分、この後も何を言ってもヘラクレスに言い返されてしまうだろう。私は抵抗することを諦め、口を閉ざした。
認めたくなくても、認めるしかなかった。私が今まで生きてこられたのはヘラクレスが守ってくれたおかげなんだ。戦闘で皆の脚を引っ張っているとは思えない。けど、怪我だけはどうしようもなかった。怪我を負っている時に私を守ってくれたのは、ヘラクレスだった。
「ナマエ。あまり無理をするな。そなたが死んでは、私は悲しい」
まただ。そうやって、いつも優しい言葉をかけては、私の心を揺らす。けど、彼が優しいのは私だけではない。彼はこの地上に生きる人間すべてを愛している。私たち、人間を守るためにその剣を振っている。彼の愛情は決して私だけに向けられることはないのだ。そして、何より彼は神様だ。人間である私と結ばれるわけがない。
「………ごめん」
自分の無力さ、そして、叶わぬこの想いに目が熱くなる。私は俯き、これだけは悟られまいと必死に堪えた。
風が髪を揺らす。ああ、どうかこの想いが風に乗って飛んでいきますように。
20130522 title:休憩
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