06


「私が君の担当をするアルマ・ベルネットだ」

エルヴィンから命を受けた翌日、新兵と班長の顔合わせが行われた。私はある意味別枠にあたるため、それに参加しなかった。代わりに他の皆が各班での指導を行っている間にジャンを自室へ招き入れた。ジャンにこのことを伝えたのは私ではなくレーナであったため、彼はこの事実を知らずにここへ来たわけだ。勿論、彼の顔は面白いことになっていた。部屋に入る時は緊張して強張っていたが、私の顔を見た途端、ああっ!!と声を上げ、目を丸くしていた。

椅子に座っていた私は立ち上がり、彼に自身の名を告げた。ジャンはハッと我に返ったのか背筋を正し、崩れかかっていた姿勢を元に戻した。ああ、若い。なんてことを思ってしまうなんて、私も随分と歳を取ったなと感じる。

「ジャ、ジャン・キルシュタインです!!まさか、あの時の方だったなんて、思ってもいませんでした…。それに、分隊長だなんて…」
「私もだよ。まさか、君が私の下に配属されるとはな」

私は椅子に座り、ジャンに用意していた椅子に座るよう促した。ジャンは返事をし、椅子に手を伸ばす。まだ緊張しているのか、動きが少し硬く感じた。

「そんなに緊張しなくていい」

恐らく、ただ緊張しているだけではないだろう。きっと、彼の中には何故自分だけ分隊長の下に配属されたのかという疑問が湧いているはずだ。訓練兵時代の彼の報告書を見た限りだと、頭がいい方だ。エルヴィンのように作戦を練るタイプではないが、状況を認識する能力は長けているだろう。恐らく、今もその疑問について様々な思考を巡らせているのではないだろうか。

「…自分だけ、他の同期とは違うと…不思議に思っているか?」

そう言うと、少しジャンの肩が揺れた。図星だ。

「…はい。同期の奴等に聞いた話では、皆、配属先は班長だと聞きました。ですが、俺だけアルマ分隊長の元に配属されています。何故、ですか…?」

あの時、エルヴィンから聞かされた内容をそのまま話そうか。だが、話したところでだ。団長に目をつけられたことから自信は持てるかもしれない。だからと言って、力を引き出すとは話が別だ。第一、あのエルヴィンの話は本当なのかも怪しい。まだ何か考えている気がする。根拠はない。ただ、彼との付き合いの長さがそう訴えかけているようだった。

「そう深い意味はない。ただ私が君を気に入った。それだけだ」

そう言うと、ジャンはきょとんとしていた。正直、ジャンがこの話を信じるとは思えない。そんな理由で自分だけ特別扱いだなんておかしいに決まっている。余程馬鹿でない限り、考えればすぐに分かる。だが、彼が本当に今後、私たちにとって必要な存在になるのであれば、ここで反論はしてもらいたくないものだ。…頭のいい君なら分かるはずだよ。

「………分隊長が俺のことを覚えていてくださったなんて光栄です。これから、よろしくお願いします!!」

ジャンの目はまっすぐ私の目を見つめていた。その瞳に分隊長に選ばれた喜びという感情は映っていなかった。何かを覚悟したような、そんな目が私を捕らえていた。…エルヴィンはとんでもない子を私に任せたのかもしれない。

「こちらこそよろしく、ジャン」

それが初めて彼の名を呼んだ瞬間だった。